酒飲み女子がどきどきさせられてます
「課長の周り、盛り上がってんねー」

ときゃいきゃいと高い笑い声が響く彼女たちを指さした。

「2課だけのはずが、子犬君見たさに1課3課と、総務部の幹事がこっそり2課の歓送迎会にあわせてセッティングしたらしいですよ」

藤間さんは少し離れた席を指さす。見ると、華やかな女性陣とその中央にずいぶんときれいな顔をした男性、八木君がいた。

「なるほどー。八木目当てだったのかー」
「総務部一のイケメン、口田人事課長には香坂さんがいるからねー」
「何それ?」
「照れない照れない、二人のバカップル、、、基、ラブラブっぷりはみんな知ってるから」

藤間の横に2課長が座ってきた。課のメンバーも女性陣が割り込んできて座れなくなったのか、他の席に移動している。

「彼女たちのパワーはすごいね。あ、隣いい?」
返事の前に座っている。優子はまだ使っていない皿を2課長に渡した。
飲んで食べて、近くの席の人も交じって盛り上がっているとだんだん人が集まってきた。

ぐるっと周りの席も見渡すと、みんな思い思いに固まってしゃべっている。



優子は飲み会のようなお祭りごとは嫌いじゃない。
優子の実家はとてつもない田舎で、お店とか遊ぶ施設は何もなかった。しかし、季節ごとにある神社のお祭りはとても楽しく、村中の人が集まって飲んだり食べたり踊ったりしていた。
優子もみんなでワイワイするお祭りが大好きだったし、今でも似た雰囲気の飲み会は好きである。



とんとんと優子は肩を叩かれた。
1課の先輩だった。
「狭いから、あっちで飲まない?」
と手を取られた。
焼酎をもったまま引っ張られるように移動すると、1課の男性陣の中に座らされて飲むことになった。
みんなから「香坂さん、香坂さん」と質問攻めにあっている。しかも距離が近い!!

(おちつかないいいいいい)

いくら酒好きとはいえ、複数の男性社員に囲まれて質問攻めにあったり、大して親しくもないのに触れるほど近づかれても困ってしまう。
自分以外のことで何か共通の話題はないものか。とはいえ、仕事の話とかともちょっと違うし、、、。

キョロキョロとネタを探していたら、店員さんが揚げたての唐揚げもってきた。

これだーーー!
と唐揚げを受けとって、それをを一口食べ、大きな声で、
「あついっ!おいしいっっ!これビールに合いますよ!」
と感嘆の声を上げる。

ぐびぐびと焼酎を飲み、「めっちゃくちゃおいしいいいい」と満面の笑みを浮かべる。
飲み物がビールでなく、焼酎だったけれどそこはスルーしておくことにした。

「そんなにおいしいの?」とみんな唐揚げに目をやった。

よく知らないメンツ。共通の話題もわからないし、名前すらわかんない人いるし。
食べ物ネタしか浮かばない!!盛り上がる他の話題を探した結果、盛り上げるネタがなさすぎて自分にがっかりしつつも周囲に声をかける。

「宇都宮さん、食べました?めっちゃおいしいですよ!」
「どれ。うまい!」
「ですよねー。丸橋さんもどうです?」
「ほんとだ、カリカリのあつあつのじゅわーです」
片っ端から名前を知ってる人に話しかける。



「楽しそうだねー」
人事課長の口田亮太郎が近づいてきた。
私の従兄でイケメンの冷たい人事課長である。

幼いころから優しくて頼りがいのある亮太郎だが、人事課長としての顔は冷静な仕事のできるイケメン課長である。
さっきまで女性社員に囲まれて飲んでいるのを見かけた。
八木君より少ないが、このイケメン課長もなかなか社内の人気者である。
「冷たい口田課長が香坂さんに激甘ー」とか
「自分にだけやさしいとか、いいわ~」
とか言われているのだ。

人事課長の登場に男性陣はちょっと緊張しているのか、少し背筋を伸ばしている。

「口田課長も一口で。がぶりと。ほれほれ、一口でがぶりと!」
亮太郎の口元に湯気がモウモウを出ている唐揚げを近づけた。


目を開き、キラキラさせて見せる。
そして食べろと言わんばかりに手を振って催促する。
みんな(熱いんじゃない?)って心配顔をして亮太郎を見る。
頭の回転がよく、ノリのいい亮太郎ならわかるだろう。そう、お約束の例のあのくだりを求めているのだよと言わんばかりに、目を輝かせる。

「ほれ、がぶっと一口で!」
「そう、一口で、、、、って、あついわーーーーーっ!湯気モウモウしちゃってるから!!」
「あははははははは!やっぱりいー?あはははは」

口田さんの口調と私の馬鹿笑いにつられて周囲も笑う。

「優子も食べろ、ほれ、食え。一口でがぶりと、お手本を!」
と無理やり食べさせる真似をする亮太郎に
「やだよ。絶対熱いもん!」
「熱いと分かっていて俺には食わそうとしたな」
「じゃ、フーフーしてから」
「俺がフーフーするのか?」
「それはちょっと気持ち悪いよ」
「気持ち悪いとか言うな!」
「わははははは!!」
とまた大声で笑う。


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