酒飲み女子がどきどきさせられてます
数か月後。


香坂さんの教育係は終了していた。
大きな企画の枠組みの中で、それぞれが分担し企画を立て、ミーティングをし、また詰める。
以前より一緒にいる時間は減ったが、それでも担当は同じなので話す機会はたくさんあった。
やはり香坂さんとの仕事はやりやすく、楽しかった。
話に夢中になりすぎて昼休憩を大きく過ぎることも多々あった。


この日もそんな日だった。

遅めのランチを一緒に食べ終え、コンビニで買ったコーヒーを飲みながら会社に向かった。
二人の話が途切れることはなく、時に笑い声を上げながら会社まで並んで歩く。
そんなよくある日常だった。

会社のビルに入る手前で突然、香坂さんがいなくなった。
俺はそのまま歩いていたのだけれど、横に彼女がいないので止まって振り返った。

香坂さんは立ち止り、前方を見てじっと固まっていた。
その目は瞬きもせず、一点を見つめている。


俺は視線の方向に目をやった。
そこには二人連れの男性がいて、俺の横を通過するところだった。
二人ともきちんとスーツを着て、そのうちの一人が彼女に気が付いた。
男性は一瞬止まったかと思うと、
「優子」
とつぶやき、小走りで彼女に近づいて行った。

香坂さんの目の前に立ち、鞄を持っていない方のその左手は彼女の腕に触れるか触れないかのところで止まっている。
彼女の目の前に立ち、
「優子、、、。」
親し気な呼び方。

ただの知り合いとは思えない距離の近さ。男性の揺れる視線。
彼女は男性の顔を見上げ、二人の視線は絡んだ。
彼女は口をぎゅっと結んだ。目を背け、避けるように男性の横を通り過ぎる。

「待って、優子」
男は優子の右腕を掴んだ。と同時に俺は香坂さんの左腕を引き寄せ、背後に隠した。
彼女と男の間に立ち、男を見つめた。

「俺の彼女に何か?」

男は悲しそうに背後に隠れている香坂さんを見つめた。
「、、、。そっか。良かった。優子なら、彼氏とかできて当然だよな」

彼女は黙っていた。

「おれ、あいつと結婚したんだ。でも優子のことずっと気になってて。あんな風に分かれて、ずっと申し訳ないと思ってて。今更って感じなんだけどさ。今、優子に彼氏がいて、幸せなんだってわかってほっとしたってゆうか、、、、。」

香坂さんが背後でぴくっと体を強張らせるのに気づいた。

「優子にはいつも笑っていてほしかったから、、、。それだけ、、、ごめんな、、、、じゃ、、、」
男は話すだけ話して離れていった。

「ちっ」
いらいらした顔つきで遠ざかる男たちを見送った後、彼女の左手首を強くつかんでいたことに気が付いた。

「ごめん、香坂さん。手首、赤くなってる。強く握ってたから、、、ごめん、痛かったよね?」
とうつむいている彼女を覗き込んだ。




香坂さんは右手で口をおさえていた。
「、、、気持ち、、、悪い、、、ト、、トイレ、、、」





ふらふらしてエントランスに入ってくる彼女を、受付の女性と二人で支えて1Fのお手洗いまで連れていき、そのあとで医務室に運んだ。
上司に彼女の体調不良を伝え、早退の準備をして、家まで送る気だった。
しかし、俺より彼氏である口田課長が社用車で送っ方がよいだろうということになり、課長の会議が終わるまでの間、医務室のベットで香坂さんは休むこととなった。

俺は彼女が体調が悪くなった一部始終を見ていた。
嫉妬と心配と課長に対する怒りで全く仕事が手につかなかった。

退社時刻まで1時間弱。
仕事はあきらめて医務室に様子を見に行くことにした。
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