酒飲み女子がどきどきさせられてます

ばれてしまった

頬に何かが触れることに気が付いた。

思い出したまま眠ってしまったせいか、優と別れた時のことを思い出していた。
閉じていた瞳からは涙がどくどくと溢れていた。

「香坂さん」

と優しくささやきながら、その大きな手は頬を伝う涙を拭おうとしていた。

そっと目を開けると、そこには悲しそうな顔をした八木君がいた。

「八木君?」
ベットから体を起こすと、八木君に抱きしめられた。
私は八木君の胸に片方の顔を埋めるように抱きしめられた。

「大丈夫だから。夢だから。俺がいるよ。だから泣かないで」
片方の手で頭を抱え、もう片方の手で背中を優しく摩ってくれている。

「夢を見て、こんなに泣いたりしないで。全部夢だから」
ずっとも摩ってくれる手は暖かかくて、その声はとても優しくて、、、。
私はぼたぼたと涙が零れ落ちることを止められなかった。




「何してる!!」

急に大きな声がして、声の主は八木を強く引き離した。

急いで仕事を終らせて、医務室に私を迎えに来た亮太郎の声だった。
亮太郎が優子が起こさないようそっとドアを開けて入ってみると、そこには泣きじゃくる優子と、抱きしめている八木がいたのだった。


「何してるじゃねえだろ!!」

八木君は亮太郎がつかんできた腕を振り払うと、逆に亮太郎のスーツの襟に掴みかかった。

「口田課長、あんた何やってたんだよ!彼女がほかの男に会ってこんなに動揺するってどういうことだよ!?」
「!?」

亮太郎が驚いて目を見張るのが分かった。

「優子、あいつに会ったのか?!」
亮太郎がベットの上で驚いて固まっている私を見た。

「あいつって何!?課長も優とかっていうやつのこと知ってんの!?
なら、なおのこと大事にしてやれよ!!
何があったのか知らないけど、ずっと香坂さんと一緒にいたんだろ!?
彼氏だったらこんな風に泣かせんなよ!!
心の傷とか、全部癒してやれよ!!
大事な女なら、守れよ!!」

八木君は胸ぐらをつかんだまま、更に大声を上げた。

優子はベットから飛び起き、裸足のまま、二人の間に割って入った。
「八木君!大丈夫だから!やめて!ね?」

「どこが!?全然大丈夫じゃないだろ!」

初めて見る温厚な八木の激怒する顔に困惑しながら叫ぶ。
「亮太郎は彼氏じゃないから!!!」



・・・・・・・・・・・・・。


八木は血走った目で、ゆっくりと私を見た。

「、、、彼氏、、、じゃない?」
優子はしっかりと一度、頷いた。

「私たち、付き合ってないから」
「え?」

襟を掴んだままで八木は亮太郎に顔を向け、私は続けた。

「従兄なの」
「え?」

亮太郎は目を細め、襟をつかんだまま手を離すこともできずに固まっている八木君を睨んだ。

「手ぇ放せよ」

八木君は慌てて両手をパッと離し、気を付けをし、
「すみませんでした!!!!!」
と叫んだ。

ふんっと乱れたスーツを直し周囲に目をやる。
「おい、お前、確か八木だよな。どうすんだ、これ?」

騒ぎに驚いた社員たちが集まってきたようだった。ドアから何人もの顔がのぞいていた。
こんなにたくさんの人の前で課長に喧嘩を売ったのだ。
タダでは済まないだろう。

「亮太郎、八木君は誤解して、私のために怒ってくれただけだから、ここは穏便に、、、」
「わかってるさ。でもそうじゃない。見ろよ。みんなに俺たちが付き合ってないことがばれたぞ」
「あ、そっち?」

八木の大声で集まってきた人々に目をやった。
ぼそぼそと「修羅場」だの「従兄妹?」だの囁きあう声が聞こえ、次第には
「じゃ、フリーってこと?」「やった」と盛り上がり始めている。

「そっちじゃねえだろ」
亮太郎は呆れたように首をこすった。
「まあ、何とかなるだろう。それより、優子。お前泣きすぎじゃろ」
きゅっと優子の鼻をつまんでほほ笑みかけた。

「ほら、靴はいて」
亮太郎はそう言うと、ベットの端に座らせ、跪いた。
靴を履かせる亮太郎に周囲から悲鳴が上がる。
それを無視して、私の頭をポンポンと2回たたき八木君を振り返った亮太郎は
「八木、もう帰れるんだろ?お前も車に乗れ。話がある」
といつもの冷静な声で言った。



「この二人を見て誰が付き合ってないと思うんだ?」
と誰かの声がした。


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