一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない

 目をぎゅっと瞑る。そしたら首筋に落ちてくる唇の感触がさらに鮮明になって泣きたくなる。

「沙穂」
「んっ」

 頬を撫でられ、それから急にキスの感触がなくなって、そっと目を開けた。
 すると、怒った目をした鷹也さんと目が合う。

「そんなに嫌か」
「ちがっ……」

 私はフルフルと首を横に振るが、目の前の彼は全くそれを信じていないように冷たい視線を私に向けた。
 それから顎を持たれ、怒りをはらんだ熱い目でとらえられると、目を瞑ることもできなくなった。

「沙穂の『好きな人』とやらのことを言う気になった?」

(そんな人いない)

 しかし、それを言わないことが私の最後の抵抗でもあった。
 きゅ、と唇をかむと、勝手に涙が流れる。

 鷹也さんはその涙を親指の腹で拭って、

「いつもなら沙穂が恥ずかしがって目を瞑っていたのも容認してたけど、今日は目を瞑ることは許さない」

ときつい口調で私に告げた。

「……え」

(そんなにいつも目、瞑ってた?)

 考えてみれば、そういうことをするときは、恥ずかしさもあってよく目を瞑っていた気がする。

 しかし、今までそんなことを鷹也さんに言われたことがないからこそ混乱していると、鷹也さんは熱い目で私を捉えた。

「沙穂の夫が俺だと、触れるのは全部俺だけだと、目を逸らさずに見て、刻み込んでおけ」
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