一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
「嫌なんて思ったこともないです」
私はやけにきっぱりと言っていた。
昔から会社のために政略結婚することは決まっていた。
そのために自分は生まれたのだ。
その運命に抗う気も、変に諦める気もなかった。
なら、私はきちんとその『役割』を果たせるように頑張ろう。そう思ってできることは前向きに取りくんで生きてきた。
父には感謝している。母にはもっと……。
だからこそだ。
―――でも本当にそれが近づいてきたとき、私はあることがしたくなった。
「私25歳なんですけど……この年になっても、まともに一人での旅行もしたことなくて。結婚したらすぐに子どもを作って、育てて、もちろん自由はなくなるから。その前に、少しだけ冒険してみたくなったんです」
関係のない人に話すと案外思考も整理できて、すっきりするものだ。
そう思って私が微笑むと、鷹也さんも優しく目を細める。
「で、冒険はどうだった? スリにあって大変だった?」
「鷹也さんに出会えたから結果オーライです」
にこっと口角を上げて微笑むと、鷹也さんも笑う。
「それはよかった」
「本当にありがとうございます。私、あなたに会えて、無理してでもこの旅行をしてよかった」
考えてみれば、この旅行がしたいと言い出した時、初めて父に反対された気がする。
そもそも私は父に反対されるようなことを言ったことがなかったんだけど……。
ーーーでも、何故か、この一人旅だけはしてみたかったのだ。
今は、してよかったと心から思う。
そんな私を見て、鷹也さんは微笑むと口を開いた。