一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない

 その夜、もちろ男女の関係なんかには一切なっていないし、手すら握っていない。
 政略結婚は決まっていたけど、まだ正式に婚約をしているわけではないし、きっと告白やキス位してしまっても誰にもとがめられることはない。

 だけど、私はその冒険はできなかった。
 受け入れられても断られても、自分の中の信念が変わってしまう。政略結婚をする相手と、日々暮らしていく中でも絶対に誠実でいられなくなる。

 そう思ったのだ。

ーーー
 次の日、鷹也さんと見たかったところを一緒に見て回って、想像以上に楽しかった。
 鷹也さんは話術もセンスがあって、ローマの歴史もおもしろおかしく話してくれる。

 心底、もう一生このままだといいのにと思った。

 時間はすぐすぎ、もう少し一緒にいたいと思ったけど、奇跡的に犯人が捕まり、お金以外は全て戻ってきた。

 手続きが終わると、私は鷹也さんにお礼をしたいと言い、鷹也さんは固辞した。

 『沙穂もこれまで誰かに親切にしたことがあるだろ? それを返してもらっただけと思えばいいよ』とだけ言われて……。

 私はきちんとした連絡先も聞けないままローマで鷹也さんと別れた。

 きっとローマに来ることはもうない。
 鷹也さんに会うことも……。

 帰りの飛行機の中、そんなことを思った。
 もし会ってしまったら、今度こそ結婚したくなくなりそうで、それが不安でもあった。

「これでよかったんだ」

 私は何度も確かめるようにそう呟いて、ローマの空の上を日本に向かって飛んでいた。

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