一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
5章:1年前②

 日本に帰ってみると、すぐに父に藤製薬本社に呼ばれた。

 私は朝からタクシーで本社ビルに向かう。
 本社と言っても、あとは営業所しかない小さな製薬会社である。

 本社の5階にある社長室にノックして入ると、父と、父の秘書の増田俊助が出迎えてくれた。
 父と私は一応一緒に住んではいるが、父も忙しく家に帰ってこれない日々が続いているので、こうして呼ばれないとなかなか顔を合わせる機会はない。

 母も私が生まれてすぐに亡くなったので、私は家政婦さんと増田にそだててもらったようなものだ。


「お父さま、増田も、ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした……パスポートの件」
「いや、沙穂になにもなくてよかった」

 父とはあまり話さないが、父が私を父なりに心配し、考えてくれていることは私にも分かっていた。最愛の妻を亡くして、娘を育てることは大変だったと思う。

 だから政略結婚については、私は当たり前だし、
 私の中では父への恩返しという意味も孕んでいると思っていた。

―――それに母が亡くなった原因は私を生んだことだから。

 もともと病弱だった母は、私を生んだことで亡くなった。
 本当なら、男の子だったらよかったのだが……そうもいかなかった。

 私はきちんとした相手と結婚して、父のためにも、会社のためにも……そして結婚相手のためにも、子どもを残すことを第一に考えるべきなのだ。

(初恋に少しでもうつつを抜かしている場合ではなかった……)
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