一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
8章:新婚生活②
私はその日、スペイン広場の近くにあるカフェに入っていた。
カウンターから街の景色を眺めると、すっかりこの街にいることが自然になっていたことに気づく。
日本を離れたのが1月。そして、一通りの季節を越えて、もう12月。
鷹也さんが休みの日は、一緒に街を色々と散策したし、郊外にも遊びにも行った。
パーティーは月に1~2回あったが、回数を重ねるたびに少しずつ場の雰囲気にも慣れてきて、最近、あの厳しい城内さんにも少しずつだが褒められることも増えた。
―――気がかりはただ、ひとつだった。
カフェに入ってカウンターでコーヒーを注文するより前、店の奥で懐かしい顔が微笑んで手を挙げる。
「沙穂」
「遥、久しぶりっ……! 会えてうれしい!」
遥が私に飛びつく。私も遥を抱きしめ、二人で笑い合った。
遥が休みを取ってローマに遊びに来てくれたのだ。
二人で席に着き、コーヒーを飲む。
先に遥が口を開いた。
「どう? 新婚生活は」
「うん。順調。子どもはまだなんだけど……」
私がつぶやくと、遥は、そう、と頷いた。
遥の、それがどうした、という声のトーンに心が軽くなる。
最近、このことばかりずっと考えている気がする。
私たちは毎晩身体を重ねているというのに、子どもがなかなかできなかったのだ。
「結婚前からそういうところはずっときちんと検査してたんだけど……案外あっさりはできないものなんだね」
「まぁ、こればかりはね。神様が幸せすぎるカップルに少し意地悪してるのよ」
遥はそう言って笑う。
確かに、私は鷹也さんと二人でいて幸せだ。……幸せすぎるくらい。