ばいばいって言えるまで
「毎日ご飯作ってるのに」
「勝手に作ってんじゃん。恩着せがましい」

「…それは」
愛華(あいか)にはわかんねえよ。ずっと家にいられる仕事なんだから」


疲れてるんだから余計なこと言わないで、と吐き捨ててお風呂場に消えていった彼にもう言い返すことは無かった。

大学生時代一緒に笑いあっていた彼はいなかった。私を見る目も全然違った。



彼はとても怖い目をしていた。

私が寝ようと思って布団に入ると鍵が開く音がする日々。朝顔を合わせても特に何も話さずお互いの準備をする日々。同棲の意味が無い生活が続いた。

不満が続いて、それが態度に出てしまって物音が大きくなることも多々あった。



「なんなん?言いたいことあるなら言えばいいじゃん」
「なんでもない」

「いつもなんでもないって言うけどなんでもないって態度じゃないじゃん。本当に何も無いならうざいから態度にも出すなよ」


「言えばいいじゃん」って私は伝えたよ。それでも聞く耳を持ってくれなかったじゃん。そんな不満も募る。わかってほしいと思ってしまう。言わなくてもわかるでしょ、と思ってしまう。

言い出す怖さと向き合うよりも汲み取ってもらうのが一番楽だったから。
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