動いてよ、きみ

 






 これは僕の退屈な心臓について








(きみ)くん」


 体の一つ一つに呼びかけを放つ。あさを迎えておはよう。ひる、生き延びたねこんにちは。よる、あしたになれるかな。そう、そう、いつもそうやって。ていねいに、ぼくはぼくに打ち解けるために、ぼく自身に媚び続ける必要があった。


 気まぐれな身体は迂闊に気を抜くと生きるのを諦めてしまう。今日もがんばった。えらい。いきた。てんさいだ。そう、ぼくがぼく自身に語りかけなければ、誰もぼくの身体を心から理解し、そして押しとどめてくれるひとはいなかった。


「君くん」


 憂いや、かなしいということ。
 怒りや、むなしいということ。

 絶望や、いきていくということ。


 それらはいつも両極端で、物言わずにぼくにいた。ぼくのなか。ぼくの粒子。そのすべてにいつも、ぼくがいる。

 誰しもそうだろうけれど、ぼくのからだは、人よりもずっと、ぼくのいうことを聞いてはくれない。

 サボりがちなんだ。サボるのは好き。ぼくも、学校に通っていた頃、何もかもが嫌になって、トイレ休憩と嘘をついて、学校の、授業中の廊下、一階の窓から身を乗り出して、外によく逃げ出した。朝の、ひかりの舞う。陽光が、生を打つ。あのひかりのなか。細分化された。光が舞うなかを、ずっと駆け抜けて。


 すすきのなかで倒れた。


「君くん」











 いのちは呼びかけに応えない。

 こころは埋もれると拭えない。

 あした。あしたは。

 あしたは今日と手を繋げる? 涙をながしながらベッドで迎えた天井のこと。白い世界、酸素呼吸器。重たい心臓、太い管を繋がれて痛い腕、生かされているいのちに、いきようとする灯火が追いつかない。なんのため。だれのため。

 重苦しい心臓の、それでもたいせつなぼくのこと。

 誰にも譲れないぼくのこと。


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