動いてよ、きみ
その日、意味もなく、よるのなか。ぼくの体たちと口を聞く夢を見た。
いきている? いきている?
いきていたい? いきていたい?
いたい? いたい、きみ、きみよ。
そう、眠る前に想像した。
天井を見上げながらゆめをみる。
毛細血管は高い声。
白血球は母なる大地。
ヘモグロビンは…なんだか、声が枯れていそう。
ぼくのからだは、ぼくをどう思っているのか。
知りたい、聞きたい、話を聞いて面と向かって反応を見てみたい。
まるで少しダークな、仄暗いえほんのせかい。
病院生活が長いから、少しこころが薄暗くなってるんだ。壁にひとりごちるのはごめんだし、母さんが置いてってくれたうさぎのぬいぐるみは男の子には可愛らしい。だからぼくは、ぼくの意志でぼくと話をしてみたかった。
ふかいよるに声がした。
王の君、君、皇子、よう。おい、おいと。
粗雑な声でぼくを呼ぶ。
ぼくが話すべき、いちばん大切で重要なきみのこと。
意志を持つ心臓のこえがあるなら。
もっと穏やかでやさしい言葉がよかった。
ぼくのなかからこえがする。
〝いい加減起きろよ、止めるぞ息の根〟
「…きみは、だれ」
〝お前が呼んだ〟
「ぼくの、心臓?」
〝その、溜めて、話すの、キモい〟
「ごめんね思わず嬉しくて。きみと会える日のことを想像して眠りについたんだ何度夢見たか君と喋ること何から話そう嬉しいななるべく今から早口で喋るよ」
〝よせバカ心臓が大変だろうが〟
はあはあはあ、と息をして、冴えない喘鳴が個室に響き渡る。ベッドのうえ、誰もいない。大部屋じゃなかったことだけがこれ幸い。脂汗をかいて余力を振り絞り生唾を飲み込んで、そのまま布団を足で蹴ったら、きみが急にやめろ、といきり立つ。