second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結


でも、自宅へ帰ると、ココロの中にぽっかりと穴が開いたように無気力になる
プライベートのことで自分がこんな状態になるのは初めてかもしれない

それだけ、雅と過ごした、楽しくて癒されて手放したくなかった時間は俺のココロの大部分を占めていたようだ


『院長は楽しそうだな。病院改革って・・』


正月から無気力になっていた俺とは対照的に、病院長は病院全体朝礼でマイクを握り締めながら病院改革を熱く訴えかけている。

年始年末休診を終えて今日から救命救急センター以外の外来診療科や入院受け入れなどが仕事始めになる。
そのせいもあって、忙しい1日になることを予想した俺は、長くなりそうな病院長の年始挨拶が早く終われとココロの中で呟く。


俺の念が届いたのか、思っていたよりも早くその挨拶は終わり、急いでNICUへ戻ろうとした。
それなのに前に進めない。
腰の上あたりで自分が着ている白衣が引っ張られている。

もしかして、雅?
そんな淡い期待を抱いて振り返った。

でも、雅はいない。

そこにいたのは、

「橘先生~、あけましておめでとうございます。今年も・・いえ、今年こそ宜しくお願いします!」

ER(救命救急センター)の看護師の上野さん。
クリスマスイヴに俺を食事に誘った人。
ついこの間、大切な人がいるからと彼女からの誘いを断ったけれど、また誘ってきそうな勢い。

それでも彼女もこの病院で一緒に従事するスタッフのひとり。
無視するわけにはいかない。

『おめでとうございます。こちらこそ宜しくお願いします。』

そう思った俺はすぐさま振り返って、白衣を掴んでいた彼女の手をそっと離してから、丁寧に新年の挨拶をして、この場をさっさと後にしようとした。

それなのに、今度は白衣の袖を掴まれて身動きがとれなくなる。


『上野さん?!』

さすがにもうそろそろ解放してくれてもいいだろうと思う俺は溜息混じりに彼女を呼ぶ。

でもそれは逆効果だったらしく、

「あたしの名前、覚えてくださったんですね!」

彼女は俺の白衣の袖をもっと強く引っ張りながら耳元でそう囁く。
彼女の言動に飽きれて物が言えない。


「あたしも覚えていますよ!橘先生のクルマが赤いSUVだってこと。隣に乗せていた女性のことも。元旦の夜だったな~。」


背伸びをしながら俺の耳元で更にそう囁いた彼女に今度は驚かずにはいられない。
元旦の夜、病院玄関前に停めたクルマに奥野さんと一緒にいたことも。


「そろそろ、ご飯、一緒に食べたいな~、橘先生と。」

『・・・・・・・』


その目撃談を利用して俺と話がしたいというところか
見られているのならば、何とかしなきゃいけない
彼女に下手な情報を流されて、奥野さんのココロをこれ以上傷つけるわけにはいかない


「じゃあ、早速、今日、ランチしましょ♪」

『・・・・わかった。』

こういう取引が大嫌いな俺だけど、この時はすぐに彼女の要求を飲むしかなかった。


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