second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
奥野さんとその男の妻との修羅場は、奥野さんが俺に打ち明けてくれた修羅場とおそらく一致しているであろうと思ったから、改めて驚くまでもなかった
でも、奥野さんが枕営業という英断をさせられていたことには驚きを超えて、怒りを覚える
どうしても、臨床心理士が欲しかった奥野さんの熱意をそんな形で利用して、それを正当化するなんて本当に許せない
『冗談じゃない・・・・』
信じられないぐらい黒いこの男を放っておくわけにはいかない俺はゆっくり動かしていたはずの箸をトレイの上にやや乱暴に置き、立ち上がろうとした。
けれども、立ち上がれない。
隣にいる上野さんに袖を引っ張られているからだ。
「先生~。あたしの杏仁豆腐、食べて下さい!あたし、今、ダイエット中なんで。」
「いつも食べてくれるじゃないですか~!」
「も~う。橘センセ、早くもらって下さい!」
言われている俺が驚いてしまうような彼女の言葉に更にイライラする
彼女と一緒に食事したのは今日が初めてなのに
本当ならば、今すぐにでも、奥野さんに迫っている男をどうにかして制止させたいところ
だから、俺は今、上野さんの言動にいちいち構っている暇はない
ちょっと乱暴だったかもしれないけれど、彼女が掴んでいた俺の袖を振り払い、再び立ち上がろうとした。
それなのに、上野さんは
「奥野先生、あけましておめでとうございます!新年の挨拶、遅れましたが、今年も宜しくお願いします♪」
「・・・こちらこそ。」
俺よりも先に動きを見せる。
しかも、俺すら話しかけられていない奥野さんに。
一歩出遅れていた俺はさらに
「雅、さっきの返事、待ってる。少し時間をあげるから、雅も邪魔者は消し去っておいてくれ。」
自分が立ち向かおうとしていた男からも遅れを取ってしまった。
しかもその男の正面から見た顔を見て、ようやくその人物が誰なのかわかった。
俺とは普段やり取りはないものの、さすがに俺もその顔は知っている。
心療内科部長の寺川医師。
心療内科は当院の中でも患者からの評判がいい診療科のひとつ
その頂点にいるのが彼だ
彼が右と言えば、周囲も右へ動く・・・そういう剛腕ぶりを耳にしたこともある人物
奥野さんが彼に釣られるのも無理はないかもしれない
おそらく俺が下手に動いたら、奥野さんに逆に迷惑をかける
そう思わずにはいられなかった俺は自分の不甲斐なさに唇を噛む。
その状況で、あの夜以来、初めて奥野さんと視線が絡んだ。
「橘先生、今年も宜しくお願いします。」
奥野さんからの他人行儀な新年の挨拶。
返答をする隙すら与えてくれないまま彼女は俺の前から消えた。
この時の彼女はまるで、“あなたは首を突っ込んでこないで”と言っているみたいで、その後も俺は彼女を追いかけることができなかった。