second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
【Tachibana side 3: 俺だけの裸足の女神】




【Tachibana side 3: 俺だけの裸足の女神】


『PGE、大至急準備!』

「さっきの心エコー中の橘先生の呟きを耳にして、もう準備してあります。シリンジポンプでスタンバイしています。」

『さすが仕事早い。ジゴシンも入れる。CPAPマスクのフィッティング調整はしておいた。このまましばらくエア対応のままで行く。』

「ありがとうございます。開業医にいるお母さんに搾乳してパックしてもらうように依頼しますか?」

『そうだね。このまま心不全コントロール上手くいけば、オペ前に体重を増やすためにも搾乳した母乳を飲ませよう。』

「了解です。開業医に連絡します。」


ドクターカーで当院NICUに搬送した女児は心エコー(心臓超音波検査)の結果、近いうちに手術が必要な先天性心疾患が見つかった。

でも、産婦人科の開業医からの連絡が早く、ドクターカーで駆け付けたことによっていち早く処置を始めることができたこともあってか、心不全の状態もコントロールできる程度でいてくれている。

『このまま、心不全コントロールしながら、なんとか体重を増やして、BTシャント術まで持っていこうな。』

保育器の中で必死に生きようとしている女児を小さな手をそっと握りながらそう語りかけた。
いつもの俺なら、こういうベビーの傍にできるだけいるようにしていた。
新生児科医師になってからずっとそうだった。

でも、今日は

今日だけは

『ごめん・・・少しだけ俺に時間をくれ・・な。すぐに戻るから。』

自分のために使う時間を作ることを許して欲しい


“こんなやつ、やめておいたほうがいい”

日詠さんを想い続けている学生時代の奥野さんにそう言えなかった日と同じ今日
俺はもう後悔なんてしたくない


『佐藤さん、末梢が締まらないように、保温、気を付けて見ていて下さい。あと、あまり心負荷かけたくないから、あまり』

「泣かせないように・・ですよね?」

『さすが、ベテラン看護師。今日、佐藤さんが今、ここに居てくれることに感謝だな。』

「バイタル、乱れそうなら早めに橘先生にコールするので安心して行ってきて下さいな・・・ほら!」


ついさっきドクターカーで一緒に出動していたベテラン看護師の佐藤さん。
娘さんが遠方の大学へ進学して手が離れたことにより再び看護の仕事が好きなだけできると喜んでいる彼女。
彼女も俺が頼りにしているスタッフのひとり。


『バレてました?今から行く先も。』

「ええ。ドクターカーで電話していましたからね。今日はそういう日ですし。行ってらっしゃい。」

『お言葉に甘えて行ってきます。』


そんな彼女はベビーの体調変化だけでなく、俺の異変をも見逃していなかったようで、ニヤリと意味深な笑みを浮かべながら、俺の背中を押した。

佐藤さんがちゃんとベビーを見守ってくれているなら、少しの時間、この場を離れても大丈夫と思えた俺は、すぐさまNICUを後にした。



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