second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結



夜間帯の医局。
院内の廊下よりも照明は明るいけれど、昼間のざわつきがないせいかデスクの引き出しの開閉音が響くくらい静か。
当直医がいるはずだけどこんなに静かであるのは、当直医がおそらくそれぞれの診療科に割り当てられているドクタールームにいるからだろう。


『病棟からの呼び出しかな・・・・でも、橘クンを見つけても、さすがに気まずいよね・・・さっきあんなことがあったし。キスとか・・・。』


コール対応に向かった橘クンは医局にも姿はなく、彼を捜しているはずなのに、どこかほっとしているあたしがいる。

『賞味期限は今日まで・・か・・・あたしは賞味期限切れとか平気だけど、明日、他のドクターにおすそ分けするのも気が引けるし・・・』


もう一度、ブッシュドノエルの入っている白い箱の蓋を開ける。
そこに入っているブッシュドノエルは艶のあるチョコレートでコーティングされている。
その上にも粉砂糖をまぶしてあって、木の切り株に雪が降ったみたいに見える。
砂糖菓子で作られたトナカイやサンタクロースも載せられていて、いかにもインスタ映えしそうな風貌なのだ


『かわいいし、美味しそう・・・今食べて、また明日も食べればいいか・・・今はクリスマスイヴだし、明日はクリスマスだから・・・』


どちらかというと甘いモノよりもお酒に合うちょっとしょっぱ辛いモノのほうが好きなあたし
でも、そのあたしでも食べたくなるようなブッシュドノエル。


「そんなに甘くなくて・・・美味しい・・・どこのお店のだろ?」


店名が書かれていない白い箱に入っていたブッシュドノエル。
あたしは橘クンの、あり得ないキスを1分1秒でも早く忘れようと
無我夢中であたしの口に合っているらしいそれを食べた。



それなのに

ピピピッ!ピピピッ!



『ハイ、奥野です。』

「奥野先生、急患です。」


ER(救命救急センター)からあたしのPHSにコールが入って。
あたしはまだ食べかけのブッシュドノエルを再び白い箱に入れて、冷蔵庫の中にも入れて、急いでERへ向かった。

そこにいたのは、さっきあたしが衝動的にその行方を捜していた人だった。



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