second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
『本当は一緒に食べたかったんだけどな。』
カップ麺の紙の蓋を容器の上に再び被せて、ごちそうさまでしたと手を合わせた瞬間、デスクの上に置いたままだったスマホのLINE通知音が鳴った。
『誰だ、こんな時間に・・・』
午後11時すぎ。
友人、家族ともSNSは事務連絡程度でしか鳴らない俺のスマホなのに
【マイハニーレイナはいつまでもかわいいだろ!】
【レイナの命の恩人である奥野さんにも晴れ姿を見せてやってくれ】
医大時代からの悪友で、姉妹病院で整形外科医師として勤務している森村から相変わらずなメッセージと動画が送られてきた。
その動画には
『やっぱり美男美女だよな・・・・』
森村がずっと大切に想い続けていて、産婦人科医師の奥野さんが命を救った患者であり、俺の患者である陽菜ちゃんのお母さんでもある伶菜さんのウエディングドレス姿
そして、その隣には奥野さんがずっと想い続けていたであろう後輩医師の日詠医師が胸のポケットにブートニアをさした白衣姿で立っている様子が映し出されていた。
『陽菜ちゃんのお母さん、元気になったな・・・・』
その動画のせいで、陽菜ちゃん誕生時を想い出す
新生児仮死状態であった彼女の蘇生が成功し、その容体が落ち着いてきた時
母親である伶菜さんの容体を確認するために、俺は彼女がいたICU(集中治療室)へも足を運んだ
そこで見たのは
血の気がない状態でたくさんの点滴ルートや人工呼吸器に囲まれてベッドに横たわっている伶菜さんと、彼女の白くなった細い指をそっと握り、聞こえていないであろう彼女に静かにぽつりぽつりと語り掛ける日詠さん
そして
彼らを数メートル後ろで白衣姿で立ったままじっと見守り続ける奥野さんだった
“伶菜、愛している、だから戻ってこい”
日詠さんがその言葉を繰り返し始め、しばらくしてから
奥野さんが踵を返して俺のいるほうへ歩き始めた
俺とすれ違いざまに目が合った彼女の瞳からは堪えきれなかったであろうひと粒の涙がこぼれていて
俺が目を見開いたことに気がついた様子の彼女はすぐさま走り去ってしまった
彼女のその涙が
・・・患者である伶菜さんの容体を想っての涙なのか
・・・伶菜さんの容体を心配し続ける日詠さんの心中を想っての涙なのか
それとも
・・・伶菜さんに愛しているを繰り返す日詠さんの姿によって改めて彼の伶菜さんへの深い愛を痛感したことによる涙なのか
それらの、どの涙か見当がつかない俺は走り去った彼女を追いかけることができなかった