恋と旧懐~兎な彼と私~
プロローグ
恋に落ちた……

それは一瞬のことで,何か大きなきっかけや理由があった訳じゃない。

名前も知らない人。

けれど有名で,私も何度もみたことある人。

なのにどうしてなのか分からないけど,何度もみたことがあったはずなのに,友達と笑いながら廊下を歩いている君をみて恋に落ちた。

初恋だった。

その瞬間,きらきらと目の前で星が瞬いたような気がした。

それくらいの衝撃。

その次の朝,なんとなくいつもと違う気がして。

起きてすぐ,気まぐれにカーテンを開けて,日の光が目に入ったとき,違和感の正体に気がついた。

自分の輪郭が,世界が,クリアになった気がした。

間違いなく高揚からだったけど,その時の私にはそう思えた。

体が軽くて,頭がふわふわして,なんだか全部が楽しかった。

友達と話すときも,いつもより幸せそうに見えると言われた。

もとから元気な方だったからそう表現されたのだと思う。

私は,もっと君に近づきたいと思った。

君をもっと知りたい。

君に私がいることを知って欲しい。

そこからだ。

いつだって誰にも心配をかけず,誰にも知られずに存在ごと消えてしまいたいと思っていた私が,全身全霊で生を感じるようになったのは。

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