恋と旧懐~兎な彼と私~
「あっそこ右」



こんな時間があるなら弘も来れたんじゃないの?

なんて今さら突っ込む方がバカだろうか。

私はスマホの画面を前に掲げながら,指示通り歩いていた。



「そこのボロいアパートな。201,間違えんなよ」

「それくらい間違えないよ」



あと人んちボロいとか言うのどうなの。

私は少し不安のある滑りそうな階段をかんかん登った。



ーピンポーン

インターフォンをならすと,中からゆったりとした音が聞こえる。

暁くんかな。

そう思って待っていると,中から出て来たのは想像以上にダルそうな暁くんだった。



「弘,あんが……は? 愛深? はぁ……もういいや。めんどくさい,早く入って」



そうして,荷物を渡して帰るつもりだった私は,半ば抱き締められる形で部屋に引っ張り込まれたのであった。
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