恋と旧懐~兎な彼と私~
「なんで!?」



頭に響かないよう,なるだけ小声で問いかける。

必死な私の声は,抑えきれない疑問のせいで悲痛にも似たものだった。



「なんでもなにも,こうしなきゃ愛深が座れないでしょ」



うん,そうだねって。

なるわけないよね。

それに私は……!



「いや? ……それとも帰るの?」



本音を隠したみたいな,責めの声色と視線に



「……ううん。帰らないよ」



私は折れた。

そもそも私が来たのは,暁くんの事が心配だったからだ。

なのに,あんな状態で,あんな不安定な表情をする暁くんをおいて帰るなんて,出来るわけない。



『友達の家でご飯誘われたんだけどいい? 帰りは送ってくれるって。ってゆーかお願いしますって言っちゃったから,今日は遅くなる』



嘘百パーの罪悪感を,私はままに発信する。

夜道を1人で歩いて帰ったなんて知られたら終わる。

しかも市内にすら居ないっていうね。

でも,それを差し引いても暁くんの方が大事だった。
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