恋と旧懐~兎な彼と私~
「あれ,昨日母さんがやったの。止めようと声をかけて,抵抗しようと振り返った母さんの,店で施されたネイルのついた長い爪が当たった。まぁ,そのお陰で落ち着いて寝てくれたんだけど。その後悔が長引いて今日は帰ってこない」



そんな母親に対して怒ることの出来ない暁くんが,目に浮かぶ。



「あの高いバック」

「やっぱり高いんだ」

「父さん若かったけど,社長としてちょっと成功してたらしくて,保険にも入ってたしお金がいっぱいあったらしんだ。引っ越そうって話もあったって」



その矢先,ということか。

暁くんのお母さんも,家族で新しい家に行く。

そんな日を楽しみにしていたはずだ。



「他の男に行くなんて出来ない母さんは,日中はパートとして働いて,散財する。その証みたいなバックなんかは,見ると悲しそうな顔をするから俺が売るかしまってるんだけど」



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