恋と旧懐~兎な彼と私~
頭に浮かぶのは過去の悲しい記憶たち



『うわキモッ』



それはすれ違いに吐かれる暴言。



『は? ふざけんなよ』

『はははっバカじゃないの?』



失敗した時の,たくさんの執拗なからかいや責めの言葉。

私を不愉快とする視線。



『サボってんじゃねぇよ』



私を形容するひどい言葉



『うわっ今日は来ないと思ったのにマジかよ。最悪』



……昼御飯をお代わりしたいだけの,人の感情の機微が分からないバカな幼なじみの言葉



『明日は絶対に学校来てね!』

『……うん!』



大好きな友達たちに,その時だけ器用に作った笑顔,そして守られる確率が低かった約束

挙げ出したらキリがない。

昼の罪悪感 夕方に目覚めた日の消失感。

楽しみにしていた授業。

進路への影響を気にする母の横顔。

そうゆうのを全部思い出す。

だから……どちらかと言えば好きだけど,怖くて会いたくない。



「彼がひどい人間なのは私の前でだけ。まぁ,空気読めなくて最低な発言したりするところがあったから,ちょっと皆には嫌われてたけど」



でもなかなか世渡り上手で,男子女子たくさんの味方がいた。

小さな妹にはちゃんとお兄ちゃんしてたりもしたし。

きっと,あの瞬間に,私がいたからいけなかった。

話し終えて駅で分かれるとき,暁くんは静かに私の背中をポンっと押した。



「ちがうよ。それは愛深がいけなかったんじゃなくて,そこが愛深の居場所じゃなかっただけでしょ? だから,愛深はここに居たらいんだよ」



そして,慰めてくれた。

ちょっと幸せな気持ちになって,微笑む。



「うん。ありがとう」



なら,誰に何をいわれても,これからだって頑張れるよ。

暁くんは不服そうな顔をして,けれど暁くんの駅についたためそのままお別れとなった。

やっぱり暁くんは優しいなぁ。

ごとごとと揺れる電車内。

傾く夕日を眺めながら,私はちょっぴり泣きたくなった。
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