鬼弁護士は私を甘やかして離さない
翌日事務所に行くとボス弁護士の中林さんと恵介がすでに出勤しており、ブースにこもり何やら相談しているようだった。
私はルーティンワークを済ませ、先週に頼まれた分の仕事をこなし始めた。
相談人のプライバシーを守る守秘義務があるため何が起こっているのかはわからない。知ってもいいことなら共有されるだろう。
でも恵介だけでなく他の弁護士もさまざまな案件を抱えている。
普段のように仕事をこなしていくのが私の役目。
そう思い、私はデスクに座り書類作成を始めた。
ふと気がつくと入り口にスーツを着た身なりのきちんとした男性が立っていた。
誰からも来客のことは聞いていなかったが新規案件かもしれないと思い私は声をかけた。
「ご用件をお伺いいたします」
すると男性は小さな声で「咲坂弁護士を出せ」という。
そんな言い方ってある?
何かおかしい。
「お約束でございますか?お名前をおねがいします」
「……」
小さな声すぎて聞き取れない。
「申し訳ございません。もう一度お伺いしてもよろしいでしょうか」
すると男性は顔を上げ「うるせーよ!咲坂出せって言ってんだろ!」と怒鳴り声をあげた。
周囲にいたスタッフみんながこちらをみる気配がわかった。
「さ、咲坂はただいま外出しております。用件をお伺いします」
何とか声を振り絞ると、駆けつけてきた中林弁護士が私の背後に立った。
「あなたは牧田さんのご主人ですね?何をしにこちらへ?脅迫ですか?」
そう声をかけながらそっと私を背中に隠してくれた。
「うるせぇ。美穂どこにいるんだよ!お前らがあいつをそそのかしたんだろ」
「そんなことはありません。彼女の意思であなたから離れました。なぜそうなったのか思い当たることがありますよね。このままここにいるなら警察に通報します。不法侵入と恐喝です」
「覚えてろよ!」
そういうとドアを蹴り開けて出て行った。
私は出ていくのを見届けると、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。
中林さんに腕を掬い上げられ、椅子に座らされた。
「真衣ちゃん、大丈夫か?驚かせたな」
私は今になって怖くなり手が震え始めた。
みんなが私のそばに駆け寄ってくる。
「大丈夫?」と口々に声をかけてくれるが震えが止まらない。
「みんな、後で話そうと思ってたけど今の牧田さんのDVで奥さんを保護している。離婚裁判になる。今日は追い返したけど最後の言葉が気になるから身辺に気をつけるように。ビルのガードマンにもキツく言っておくから。あの身なりじゃエントランスを通しても仕方ないけど二度と同じことがないようにしてもらおう」
あんな大声で怒鳴られたら奥さんはさぞ恐ろしい思いをしていたのだろうと思った。
「これからはしばらく女性社員は1人で帰らないように。みんな協力する様に。咲坂、お前は特に気をつけろ。テレビでも顔が知られてるから狙われやすい」
「はい。肝に銘じます」
恵介が狙われる?
背筋が凍る。指先が冷たくなるのを感じる。
恵介を見ると私を見つめていて、強く頷いている。
まるで「大丈夫だ」と言っているようだった。
私も恵介を見て頷き返した。
中林さんからみんなへの情報共有がなされ、要注意人物として確認された。
夜、家に帰り22時になり恵介から電話がきた。
『真衣、今大丈夫?』
「うん」
『ごめんな、今日驚かせたな。すぐに俺が在席してるって言ってくれたら真衣に怖い思いをさせなかったのに。守るって言って守ってもらってるんじゃダメだな。情けない』
「恵介じゃなくても、他の人でも同じ対応したと思うよ。あの人おかしかったもん」
『おかしいと思うのなら余計に誰かに代わるんだ。真衣の責任感の強さは分かってるけど、お願いだから無理しないでくれ』
「うん……」
『あの件でこれからしばらくかかりきりになる。俺と真衣が一緒にいるところを見られたら真衣が狙われかねないからしばらく会えない。でも毎日連絡するから』
「うん。恵介頑張って」
そう言って電話を切った。
まだ外なのか電話の後ろでザワザワしている音が聞こえた。
私はふと思いつき、お米を研ぎ炊飯器をセットした。
翌朝少し早めに出勤し、恵介の席の椅子にこっそりと紙袋を置いた。
忙しいからきっとまたお昼を抜いていると思って中にはおにぎりを3個入れた。
恵介から【ありがとう】とメッセージが入っていた。
私はそれから毎日、野菜をたくさん入れたサンドウィッチやおにぎりをこっそりおくようになった。
恵介は普段の仕事に加え牧田さんの離婚問題、テレビでの仕事もあり益々多忙になって行った。
電話はなかなか来ず、メッセージも短いものになっていった。
恵介が忙しいのは分かっていたから私から連絡はできずにいた。
私はルーティンワークを済ませ、先週に頼まれた分の仕事をこなし始めた。
相談人のプライバシーを守る守秘義務があるため何が起こっているのかはわからない。知ってもいいことなら共有されるだろう。
でも恵介だけでなく他の弁護士もさまざまな案件を抱えている。
普段のように仕事をこなしていくのが私の役目。
そう思い、私はデスクに座り書類作成を始めた。
ふと気がつくと入り口にスーツを着た身なりのきちんとした男性が立っていた。
誰からも来客のことは聞いていなかったが新規案件かもしれないと思い私は声をかけた。
「ご用件をお伺いいたします」
すると男性は小さな声で「咲坂弁護士を出せ」という。
そんな言い方ってある?
何かおかしい。
「お約束でございますか?お名前をおねがいします」
「……」
小さな声すぎて聞き取れない。
「申し訳ございません。もう一度お伺いしてもよろしいでしょうか」
すると男性は顔を上げ「うるせーよ!咲坂出せって言ってんだろ!」と怒鳴り声をあげた。
周囲にいたスタッフみんながこちらをみる気配がわかった。
「さ、咲坂はただいま外出しております。用件をお伺いします」
何とか声を振り絞ると、駆けつけてきた中林弁護士が私の背後に立った。
「あなたは牧田さんのご主人ですね?何をしにこちらへ?脅迫ですか?」
そう声をかけながらそっと私を背中に隠してくれた。
「うるせぇ。美穂どこにいるんだよ!お前らがあいつをそそのかしたんだろ」
「そんなことはありません。彼女の意思であなたから離れました。なぜそうなったのか思い当たることがありますよね。このままここにいるなら警察に通報します。不法侵入と恐喝です」
「覚えてろよ!」
そういうとドアを蹴り開けて出て行った。
私は出ていくのを見届けると、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。
中林さんに腕を掬い上げられ、椅子に座らされた。
「真衣ちゃん、大丈夫か?驚かせたな」
私は今になって怖くなり手が震え始めた。
みんなが私のそばに駆け寄ってくる。
「大丈夫?」と口々に声をかけてくれるが震えが止まらない。
「みんな、後で話そうと思ってたけど今の牧田さんのDVで奥さんを保護している。離婚裁判になる。今日は追い返したけど最後の言葉が気になるから身辺に気をつけるように。ビルのガードマンにもキツく言っておくから。あの身なりじゃエントランスを通しても仕方ないけど二度と同じことがないようにしてもらおう」
あんな大声で怒鳴られたら奥さんはさぞ恐ろしい思いをしていたのだろうと思った。
「これからはしばらく女性社員は1人で帰らないように。みんな協力する様に。咲坂、お前は特に気をつけろ。テレビでも顔が知られてるから狙われやすい」
「はい。肝に銘じます」
恵介が狙われる?
背筋が凍る。指先が冷たくなるのを感じる。
恵介を見ると私を見つめていて、強く頷いている。
まるで「大丈夫だ」と言っているようだった。
私も恵介を見て頷き返した。
中林さんからみんなへの情報共有がなされ、要注意人物として確認された。
夜、家に帰り22時になり恵介から電話がきた。
『真衣、今大丈夫?』
「うん」
『ごめんな、今日驚かせたな。すぐに俺が在席してるって言ってくれたら真衣に怖い思いをさせなかったのに。守るって言って守ってもらってるんじゃダメだな。情けない』
「恵介じゃなくても、他の人でも同じ対応したと思うよ。あの人おかしかったもん」
『おかしいと思うのなら余計に誰かに代わるんだ。真衣の責任感の強さは分かってるけど、お願いだから無理しないでくれ』
「うん……」
『あの件でこれからしばらくかかりきりになる。俺と真衣が一緒にいるところを見られたら真衣が狙われかねないからしばらく会えない。でも毎日連絡するから』
「うん。恵介頑張って」
そう言って電話を切った。
まだ外なのか電話の後ろでザワザワしている音が聞こえた。
私はふと思いつき、お米を研ぎ炊飯器をセットした。
翌朝少し早めに出勤し、恵介の席の椅子にこっそりと紙袋を置いた。
忙しいからきっとまたお昼を抜いていると思って中にはおにぎりを3個入れた。
恵介から【ありがとう】とメッセージが入っていた。
私はそれから毎日、野菜をたくさん入れたサンドウィッチやおにぎりをこっそりおくようになった。
恵介は普段の仕事に加え牧田さんの離婚問題、テレビでの仕事もあり益々多忙になって行った。
電話はなかなか来ず、メッセージも短いものになっていった。
恵介が忙しいのは分かっていたから私から連絡はできずにいた。