鬼弁護士は私を甘やかして離さない

良い思い出になるまで

そんな毎日が数週間続いていたある日、美沙からメッセージが届いた。
新婚旅行のお土産を渡したいから、と食事のお誘いだった。
私は喜んで約束をした。

美沙は新居に誘ってくれ、土曜日の昼にお邪魔することになった。
綾人くんがいるけど気にしないで、と言われ知らない仲でもないので私はありがたくお誘いに応じた。

2人の新居は目の前に公園があるファミリー向けのマンションだった。
駅には少しだけ距離があるけど歩けないほどではない。
買い物にも困らなさそうなとても雰囲気のいいエリアだった。

「「いらっしゃーい」」

2人に笑顔で迎えてくれた。
私はお土産に持ってきたロールケーキを渡し部屋は入ると、今までの美沙の部屋とは違い北欧カラーで揃えられており、家具も木が多くてとても優しい雰囲気がした。
もう美沙の部屋じゃなくて2人の家になったんだなぁって改めて思った。

「真衣ちゃん、来てくれてありがとう。ゆっくりしたいって」

「綾人くん、ありがとう。新居に呼んでもらえて嬉しい」

「真衣、あとで結婚式の写真見ていってよ。真衣の泣いてる顔だらけだから」

「嘘、撮られてたの?」

「うん。撮られたのもあるけど映り込んでるのもみんな泣いてたよ」

「ごめん。感動してずっと涙が止まらなかったのよ」

そんな話をしていると綾人くんは飲み物を運んできてくれた。
すると交代で美沙が立ち上がり食事の準備をしてくれた。私に飲み物を出すと綾人くんもキッチンに戻り2人で料理をし始めた。特に何がっていうこともないけど息の合った2人の姿を羨ましく思う。

2人があっという間に仕上げてくれた料理を食べ、写真を見ながらケーキを食べると綾人くんは気を利かせて外出してしまった。
待ってましたとばかりに美沙から斗真の話をされた。

「ねぇ、斗真くんと話した?」

「うん、少しだけ」

「で??」

「特に何も。話したいって言われたけど私のお迎えが来たからそれで分かれて終わり」

「お迎え?!」

「うん。実は事務所の弁護士と付き合ってるの」

「え??この前まで誰もいないって言ってたのに」

美沙は驚いてソファから身を乗り出してきた。

「うん。鬼のような弁護士先生で、たまたま食事に行ってからよく食べに行くようになったの。プライベートはとても楽しくて気配りができて私も惹かれていたけど踏み出せなかったの。でも先生が私に付き合って欲しいって言ってくれて、それで今お付き合いしてる」

「鬼のようって言うけどプライベートは怒らないんだよね?」

「もちろん。それに私は嘘が嫌いって話した。嘘をつかれるくらいなら付き合えないって言ったの。そしたら嘘はつくつもりはないけど、不安なことがあったらすぐに聞いてって。それに私に誠実でいるって言ってくれたの」

「さすが弁護士先生だわ。なんとなく説得力ある」

「そうだね。安心感があったわ。それに彼のところにいると守られてるって思うの。胸の中が温かくなるの」

「そうなのね。やっと真衣が新しい一歩を踏み出せてよかった。斗真くんのことを引きずっていたからヨリを戻すのかと思ってたの」

「初めての彼で、結婚まで意識していたのに5年も経って斗真のことを実は何も知らなかったんだって裏切られ感が強かったの。何も信じられなくなってたの。だから誰とも付き合うつもりなんてなかった。それを恵介はゆっくりと私の心の中に入ってきてくれて包み込んでくれたの」

「うん、うん。私も斗真くんが九重コーポレーションの御曹司だなんて本当に驚いた。真衣に聞くまで信じられなかった。でもさ、こうして新しい彼にめぐりあうことができて良かったね」

「うん。今の彼は仕事には厳しいけどいい人だよ。美沙も知ってるかもしれない。テレビでもコメンテーターとして時々出てるの。咲坂恵介って弁護士なんだけど」

私が名前を言うと驚いていた。

「知ってるよ!よく見かける!凄いイケメンじゃない?優しそうだし、なによりアドバイスが的確。鬼には見えないし、むしろ羨ましすぎるよ」

「テレビの顔はまた違うのよ。仕事だとミスを怒鳴られるよ」

私が笑って言うと美沙は脱力したようにソファに倒れ込んだ。

「羨ましいなぁ。あんなイケメンなら叱られたいわ。今度会わせてね」

私が笑って頷いた。
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