鬼弁護士は私を甘やかして離さない
朝になると昨日よりはいいのかもしれないがやはり気持ちの悪さが辛い。

ふと見るとソファに眠る恵介の姿があった。
私は恵介のそばまで歩いて行くが気がつく様子はない。
病み上がりなのにこんなところで寝かせてしまって申し訳ないことをしてしまった。
心配になり恵介の額に触れるとその手を掴まれた。

「恵介?」

「真衣。起きた?調子はどう?」

「うん。なんとか。それより昨日帰らなかったんだね。ごめんね、こんなところに寝かせちゃって」

「帰れるわけないだろ。大丈夫か?」

「うん」

昨日言われたことを私は思い出していた。
今日ちゃんと病院に行って確認しなければならない。
その前に恵介に話してもいいのかな。
私は恵介の顔を見つめた。
すると恵介は私の顔を撫でながら申し訳なさそうな顔をしていた。

「真衣、痩せたな」

その切なそうな顔に、私は恵介を信頼して正直に話そうと思った。
付き合った年月じゃない。
私がどれだけ恵介を信頼しているかの問題だ。

「恵介。昨日先生に言われたの。妊娠してるって」

「妊娠?」

「うん。つわりが酷くて脱水から倒れたんじゃないかって言われた。今日ちゃんと産婦人科で診てもらうようにって」

「本当か?真衣のお腹に俺の子がいるのか?」

「うん。恵介困る?」

「困るわけないだろ!嘘だろ。こんな嬉しいことがあるなんて」

恵介は私のことを膝の上に乗せると抱きしめてきた。

「一緒に今日病院に行こう。俺は真衣も子供も大切にしたい」

「本当?困ってない?」

「困るわけない!何度も言うけど俺は真衣しか考えられない。その真衣が俺の子を妊娠してくれたんだ。神様に感謝するよ。付き合ったのは短くても俺はずっと真衣に惚れてた。だから俺にとっては急な話じゃない。真衣、ありがとう」

「恵介!」

恵介の胸の中に抱きしめられ、私は恵介のいつもの温かさに安心した。
私も恵介の背中に手を回し抱きついた。

「土曜日だから午前だけなのかな?真衣が出られそうなら病院にいこう。でもその前にお茶でも飲むか?何か食べれそうなら買ってくるけど」

「食べられそうにないからお茶だけ飲む」

そういうと私を膝から下ろし、ソファに座らせた。
恵介は私のキッチンを物色し温かいお茶を入れてくれた。

恵介に話したせいか、一緒にいて落ち着くせいか私の吐き気は格段に良くなったように思った。

「真衣、車を回してくるから待ってて」

そういうと恵介は走り出して行った。
恵介だって傷がまだ痛むはずなのにあんなに喜んでくれるなんて伝えてよかった。

私たちは昨日の病院に行き、産婦人科での診察を待った。

「小林真衣さん、1番にお入りください」

アナウンスが聞こえると、恵介と一緒に診察室へ入った。
 
恵介は診察室で待たされ、私は内診台は上がった。
はじめてのことでとても緊張したがエコーを見た時涙が溢れてきた。

「小林さん。もう心拍まで見えてるわ。週数がいってるから体と頭見えてるわね。彼にも見てもらう?」

そう問いかけられ、私は「お願いします」と伝えると恵介は部屋に入ってきた。
天井から下がるモニターに映し出された赤ちゃんの様子に息をのんでいた。

「可愛いなぁ」

私は恵介に手を伸ばした。
すると恵介は手を握ってくれた。
カーテンの向こうには見えていないだろう。
さっと私の額にキスをしてくれた。

昨日の診断通り妊娠9週でもうすぐ10週に入るとのことだった。
つわりは人それぞれだから上手く付き合うように言われ、その他の注意も説明された。
恵介は真剣に聞いており、なんだかここでも頼もしかった。

家に帰ると恵介は自分の部屋に越してきて欲しいと言われた。
私の家は事務所まで遠い。
このところ何度か途中下車した話をしたから余計にそういうのかもしれない。

「恵介、引っ越しはできない。物事には順序があるでしょ。妊娠は想定外だけど、それ以外は……ちゃんと……」

私が言い淀むと恵介はわかってると言わんばかりに言葉を続けた。

「結婚しよう!一生真衣を大切にします。俺と結婚してください」

「はい」

きちんとプロポーズしてくれた恵介にちゃんと返事が返せた。

「真衣と子供をずっと愛し続けるって誓う」

そういうと涙を浮かべた私をお姫様抱っこし、キスをした。
世界で1番幸せだって思った。
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