鬼弁護士は私を甘やかして離さない
土曜日。
いつもと変わらず斗真はお昼ご飯になるようサンドウィッチを途中で買いうちに来た。
インターホンを一度鳴らし、合鍵で開ける。

「おはよ」

そういうといつもと変わることなく部屋に入ってきた。

「今日出かけなくていいの?あとで出かける?この前行きたがってた映画に行かない?」

斗真は何も変わらない。
この前私が見た斗真は別人だったのではないかと思った。
でも背後に人を従えて歩く斗真の姿が目に焼きつき離れない。

「斗真。斗真は私に隠してることある?」

「隠してること?」

「うん……」

「ないよ。真衣に隠すようなやましいことは何もない」

そう言い切ると私の顔を覗き込んできた。

「どうした?何かあった?」

私は言おうか言うまいか悩んでいたが、このまま知らなかったことにはできないと思い斗真にこの前見てしまったことを伝えた。

「斗真、私に営業だって言ったよね?3年目で専務になれるわけないよね?どういうこと?なんで斗真は黒塗りの車から降り、人を従えているの?」

斗真は無言になった。

「ねぇ、言えないこと?私は5年間付き合ってきたのにどうして斗真のこと知らないんだろう。私って斗真にとってどんな人?」

「真衣!真衣は大事な人だよ。将来のことも考えてる」

「でも、斗真は何も教えてくれないね。たしかに実家暮らしかもしれないけど、こんなに長い付き合いなのに実家に招待もしてくれないし、親にも会わせてくれないんだね。もう斗真が分からなくなっちゃった」

「真衣!俺は真衣が好きだよ」

「でも隠し事はするんだね。よく考えたら私は大学の時の斗真しか知らなかった。斗真のことわかっていたつもりだったけど、全部つもりでしかなかった」

斗真は私の手を取り弁解しようとするが、そんなものは聞きたくない。
5年間何も言われなかったのに、今私が言い出さなかったらそのままだったよね、


「斗真への信頼が全て消えた。絶対的に信頼してたし、斗真は私の全てだった」

「真衣。俺は真衣が1番大切だ。幸せになるために頑張ってる。ごめん、仕事のことは…少し誤魔化してた。ちゃんと説明させてくれ」

「もういい!もういいよ。こんな形で説明されるなんて不本意。斗真には何も隠し事をしないで話してほしかった」

「真衣、聞いて」

「嫌。もう斗真とは付き合っていけない。私は嘘つかれるのが1番嫌い。そのことは斗真が1番知ってたよね?知ってたはずの斗真に嘘をつかれるなんて最悪だよ」

私は涙がこぼれ落ちてくるのを手で拭いながら嗚咽を漏らした。
斗真が近寄ってきて私を抱きしめようとするのがわかった。
でも私はそれを拒んだ。

「もう帰って。荷物はまとめておくから」

「聞いて!」

「嫌……お願い、もう帰って。苦しいの」

私は斗真の体を押した。
斗真は何度も説明しようとしたが私はもうそれを受け付けなかった。
裏切られたという思いしかそこにはなかった。

斗真は押し出されるように私の部屋から出て行った。
斗真を押し出した後、私は玄関ですわりこみ、嗚咽が漏れ涙が止まらなかった。

斗真……
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