義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
大学生
ののside
時は流れ、卒業式を終えた3月末。
駆くんとの同居生活が幕を開けた。
「先に帰ってきた方がご飯作る?それとも日毎に分担にする?」
「先に帰ってきた方が作る方が良いかもね。連絡はこまめに取ろう。生活費はなるべく浮かせたいかな。」
「確かに。たまに贅沢するくらいで良いかなぁ。………俺は、のんちゃんと一緒なら何でも良い。」
同居生活に選んだのは、2DKの築年数が古い物件。玄関を開けるとすぐにダイニングがあり、そこから奥に続く扉が2つ。部屋は完全に別々で一緒に過ごすのはご飯の時間くらいだと思う。
「んー…上の棚に仕舞おうかなぁ…」
余分に買ってきたキッチンペーパーとラップを収納するべく背伸びをする。高い棚にあと少しで届きそうなところで…。
「そういうのは頼ってくれると嬉しいんだけど。」
ソッと背後から手が伸びた。
ふわりと柔軟剤の匂いがして、くすぐったい気持ちになる。
「……ここに置くと、のんちゃんが1人の時に届かないんじゃない?」
「その時は台使うから平気。」
「そう?」
機転が効くし、思慮深い人だと思う。
「……背伸びしてるのんちゃんも可愛い」
「キザだ…」
「あ…心の声がダダ漏れだった…」
謎のプロポーズ(?)から今日まで、未だに心地いい距離感を見つけられないでいる。
そう思っていることを察したかのように、駆くんは…。
「安心して。のんちゃんが嫌って言うことは絶対にしないから。」
一線を引いてくれる。
「必要以上にベタベタするつもりはないよ!」
そう宣言してすぐに、私の隣にピタッと並んで顔を見つめてきた。
「……ん?」
『必要以上に』って言いました?
彼から発される甘い雰囲気から読み取るに、『一線を引いてくれる』つもりはないのかもしれない。
突然の身体の距離の詰め方に、ただただ瞬きをして問いかける。
「必要以上って…どういうこと…?」
「警戒心、一切持たれないのはそれはそれで嫌だから、ほんの少しだけ触れようかなって。嫌だったら言って欲しいんだけどさ。」
「……?」
今度は彼の発言の意図が汲み取れない。心情が良くわからなかった。
「たとえば…」
スッと駆くんの手が伸びてくる。そのまま、私の頭をポンポンと撫でて…。
「こういうの、嫌?」
あたたかい手。思えば、人から頭を撫でられたのは物凄く久しぶりな気がする。
「…………嫌じゃない。」
「…じゃあ、ギュってするのは?」
「…ッ………」
「無言だと期待するけど」
プロポーズされた日から、ずっと胸の奥がくすぐったい。
自分の気持ちが良くわからない。
ただ……
「嫌そうじゃないのがシンプルに嬉しいや」
その笑顔は相変わらず陽だまりみたいで、目が離せなかった。