義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた



「論理学は出席率、レポート、小テストで成績をつけます。小テストは前期の最後の授業で行いますが、その範囲は…」


白髪の教授がマイクを持ち、貫禄のある喋り方で授業について話していく。


「では、初回の講義ですが…」


身が引き締まるような渋い声を聞きながら、ちらりと横を見ると駆くんは真剣に話を聞いていた。

根が真面目で、頑張るときはひたすらに頑張る人。

そういうところを尊敬している。


「……であるからして、皆さんはこの講義から色々な物事の考え方、見方を養っていっていただきたい。」


思えば、駆くんと一緒に授業を受けたのは高校1年生以来だ。あの頃よりも駆くんの雰囲気は落ち着いたし、何より背は伸びて更に格好良くなった気がする。

さっきも講義室に入った瞬間、女子からの視線を集めていた。

……もう女子って言えるような歳ではないかもしれないけれど。


「……今回、数学を専攻している人はお馴染みの問題かもしれないが…」


専門的な難しい用語が出てくると、グッと肩が凝ったような感覚に陥る。

スラスラと駆くんは隣で紙に何か書いていた。

論理学は数学が関係してるらしい、ということはこの数分で分かった。数学が得意な駆くんにとってはお茶の子さいさいなのかもしれない。


ぼーっと教授の方を眺めていると…。


スッと1枚のルーズリーフが横から視界に入った。


「?」


何度か瞬きをして、『何?』という気持ちを込めた視線を駆くんに送る。すると、シャーペンの先でトントンと紙を優しく突いた。

目線を下に落とすと…。


『のんちゃん、ぼーっとしてる。眠い?』


ドキッとした。いつの間にか横から見られていたのかと。そして軽く眠気が襲ってきていたことも全てバレていて恥ずかしい。


『眠い!眠気覚ます方法募集中。』


渡されたルーズリーフの空いているスペースにメッセージを書いて差し出す。
その数秒後、すぐに駆くんはシャーペンを走らせた。カツカツと音を立てて書いている。

そして紙が戻ってきた。


『手、出して』


(………どゆこと?)


突拍子もない。眉間にシワを寄せて駆くんを見ると、私と駆くんの間の空席に手を置いて指先をクイクイと合図するみたいに数回曲げていた。

よくわからないまま、手を出すと…。


《カサッ》


「…っ…」


何か小さなものを握らされる。スッと自分の方に手を引き戻して中身を確認した。


(……レモンの飴…?)


黄色いパッケージが目に飛び込んでくる。酸っぱそうな見た目をした飴を一瞥(いちべつ)して、再び駆くんを見たら目が合って…。


あ・げ・る


と、私にわかるように口をパクパクさせた。それから優しく笑って、教授の方向を向いて講義に集中し出す。


なんだか勿体ない。


そう思った私は、せっかく貰ったレモンの飴をそっとポケットにしまった。



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