義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
『まもなく1番線に電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください。』
平日に聞く何気ないアナウンスも、休日だとワクワクとした印象に変わる。
「電車混んでるかな?」
「いつも席空いてないもんね。」
最近、家事や課題に追われていたからか、学校とスーパー以外で外に出るのは久々だった。隣には無地のTシャツ1枚でサマになっている駆くん。一緒に住むようになってから思っていたけど、何着ても似合う。それがものすごく羨ましい。
「お、きたきた。転ばないように気をつけて。」
電車が到着して乗り込む。
目に入ったのは元気いっぱいに笑う子供を連れた夫婦。一人で杖をついて座っている年配の人。友達と仲良さそうに話している高校生。
「空いてるところないか。立ってて平気?」
「うん。座れた試しないし」
「確かに」
近くの手すりを掴もうと視線を向けると、寄りかかりながらスマホを弄っている人がいた。断念して高い吊り革に手を伸ばすと、肘がピンと伸びる。あまり身長が高いわけではない(標準より少し下くらいの)自分を恨みながら、よろよろと電車の揺れに対応した。
そのまま一駅過ぎたところで…。
「ごめん。気が利かなかった。」
そう言い、突然私の空いている手をとって駆くんは耳元で囁いた。
「俺につかまって。辛いでしょ?」
顔を見ると、たまに見せる大人っぽい笑顔を浮かべていてドギマギする。
「……ありがと…」
お言葉に甘えて駆くんの腕に掴まった。気恥ずかしさを紛らわせるように流れる景色を眺めていると…。
「はぁ……」
隣でため息が聞こえてきた。それから数秒後、私の思考回路は暗い方向へと進んでいく。
(何かした…?腕掴むの迷惑だった…?もしかして図々しい…?)
「……ごめ…」
謝罪の言葉を口にして手を離した瞬間、大きく電車が揺れ動いた。
「わわ…!」
重心が背後に倒れていく。
「っ…!」
頭を壁にぶつけそうになってギュッと強く目を閉じた。
けれど、予想した痛みは全くなく…。
駆くんが咄嗟(とっさ)に私の腕を掴んで支えてくれていたことに気づく。
「……よかった…。もう…なんで放したの…?危ないじゃん。」
「っ…迷惑かと…思って…」
「そんなこと思うわけない!」
「だってため息ついてた…!」
助けてもらっといて、この態度をとるのは相当嫌なやつだ。それに気づいてハッとした時。
「……それは…その…腕触られて…めちゃくちゃドキドキしたから…!落ち着かせたくてため息ついただけ!」
真っ赤な顔して駆くんが言う。それに釣られるように私の頬も熱くなりだした。
「ごめん…。その…助けてくれてありがと…。」
思えばいつも、私のピンチに駆けつけて助けてくれる。私の反応一つ一つを汲み取って、どんなに私が酷い態度をとっても変わらずに温かい接し方をする。
「………どういたしまして」
全身で大切に想ってくれる人。
私には勿体ないほどの人。
「彼女を守るのも、彼氏の役目ですので」
自分で言っておいて照れる可愛い人。
そんな駆くんの彼女として、ふつつかものですが自分なりに1日頑張ろうと心に誓った。