義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
家に着くと、のんちゃんはおぼつかない足取りでリビングのソファに座り込む。お水を用意して手渡すと、『う〜ん…』と唸りながら喉を潤していた。
「……飲みすぎ。」
「そんなこと…ないもん…」
「何がセーブする、だよ。全然じゃん。」
「………楽しかったんだもん…。」
無言のまま俺にコップを突き出して、もっとくれと請う。そして言われるがまま水を汲んでもう一度手渡すと…。
「飲みたいのに、怠くて腕上がらない」
「………飲ませろ、と?」
「口移しがいい〜」
いちいち俺の心を乱すから勘弁してほしい。
でも、抵抗せずにお願いされたことを喜んでしてしまうから…自分はどうしようもないと思う。
「……いちゃいちゃしよ…」
プツンと張り詰めていた糸が切れるような音がした。
(あぁ…もう…どうにでもなれ…)
口に水を含んで、魅惑的な唇に自分の唇を重ねた。
「んぅ…」
溢れないように丁寧に水を送り出す。コクン、とのんちゃんの喉が鳴った。
変に興奮して、止まらなくて。
また水を含んでは、それを繰り返した。
「冷たくて美味しい…」
お酒の味がする。甘いお酒の味だ。
瞳を見つめて、のんちゃんの首に触れる。その冷たさに驚いたのかビクンッと小さな体が跳ねた。
「……俺…割と理性限界なんだけど…」
大きくため息をついて俺を振り回す彼女を熱い視線を送ると…。
「………遠慮…しなくていいよ…」
と。
「……………無理…」
頭をガシガシと掻いて雑念を振り払うように深呼吸をした。
それから抱き抱えてリビングを後にする。世に言うお姫様抱っこ。俺の首に手を回して頬を鎖骨に擦り寄せてきた。いちいちツボを押してくるのんちゃんを恨めしく思いながら、ベッドへと横たわらせる。
「着替え…」
床に畳んで置いてあった寝巻きを拾い上げて、渡すと…。
「自分で着るのむり〜」
酔って幼児化している。可愛いけど正直困る。
「甘え過ぎ」
「そうかなぁ?」
「カマチョも度が過ぎるとどうなるか知らないよ…?」
少し拗ねたように返答した。その態度が気に食わなかったらしく…。
「………キス…」
一言だけ放って、上目遣いで俺を見る。
本当にズルい人だ。
「…………」
「…………」
無言のまま、数秒間の時を過ごす。
「……はぁ…」
義理の兄妹。その関係性に加えて恋人同士でもある。
胸張って人前で付き合ってるって言えるようになったのは、実家から離れて暮らし始めて、両想いになり、暫くしてから。
(……まだ父さんと母さんには言えないけど…)
のんちゃんも色々と思うことあるんだろうな。
「ねぇ、駆くん…ベッドきてよ〜…」
誘われるままベッドに座る。マットレスが徐々に沈み込んでいくのを心地よく感じながら、彼女の顔を覗き込んだ。
こんな風に、
《チュ…》
「ん……っ…」
唇で触れ合うことも、何処かで背徳感を抱いてしまう。
「んっ…はぁ……」
「気持ちいい…?」
「うん…」
「もっと舌…出して…」
好きで好きで堪らない。……それはお互い様。
香るアルコールの匂いにクラクラした。絡めた舌の温度が温かくて、陶酔してしまう。
もっとほしい。もっと重なりたい。
もっと…もっと…。
《ガチャ…》
「のん、帰ってきたー?」
……………これは、向き合わなくてはならない問題を後回しにした罰だ。