義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
胸を張ること
ののside
緊急家族会議が開かれたのは、駆くんとキスしていたのをお母さんに目撃されてから数分後のことだった。
リビングに重苦しい雰囲気が漂う。
実家なのに、酔っ払った勢いで駆くんに甘えてしまった。もっと緊張感を持つべきだった。
「…………」
誰も話さない。
お父さんも、お母さんも、駆くんも。
それぞれ何を考えているのか、想像するのも怖かった。
最初に口を開いたのはお母さんだった。
「……付き合ってるの…?」
「はい。真剣に付き合ってます。」
即答で答えたのは駆くん。驚きつつも根の強さを尊敬しながら、2人の会話に耳を傾ける。
「いつから?」
「大学入ってからです。俺から言い出しました。」
「………」
お父さんは一度も口を開かない。それが逆に怖くて、身の毛がよだつ。
「……あのさ…」
そんなお父さんの方を向いて、駆くんが口を開いた。何か言おうとしていたけれど、それを遮ってお父さんは…。
「少しだけ、駆と2人でお酒でも飲もうかなぁ。」
「………え…?」
拍子抜けした。
「俺の部屋で飲もう。そうだなぁー…ビールは好きか?」
席を立って、缶ビールを2つ冷蔵庫から取り出した。そのまま視線のみで一緒に来るように促された駆くんは、後を追ってリビングから出て行った。
「私はのんと話そうかな。」
「………ごめんなさい。」
「なんで謝るのよ?」
「だって……」
ごめんなさい。申し訳ない。
家族として仲良くする、それが間違いなく1番の理想。それにお母さんはこの家族への思入れが強いはず。
色恋でお母さんを幻滅させてしまった。
たった一人の大切なお母さんに、悲しい想いをさせてしまった。
「…………ごめ……」
もう一度謝罪を述べようとした時、お母さんは言った。
「あなたは謝る程度の生ぬるい気持ちで駆くんと付き合ってるの?」
それまで下を向いていた私は、お母さんの言葉で顔をあげる。
「違うよ…。そんな軽い気持ちで付き合ってない。」
「なら、もっと胸張りなさいよ。駆くん、良い子じゃない!素直で純粋で!それにちょっと奥手で…可愛らしい顔立ちだし。それに……」
「………それに…?」
「……のんのお父さんみたいな笑い方する。」
お母さんも気付いていたんだ。
実のお父さんを丸っ切り忘れて今があるわけじゃないんだ。
それがなんだか嬉しかった。
「……でかした!逃がさないようにしっかり捕まえておくんだよ!」
「っ…」
「何よ?私に叱られると思ったの?」
「うん…」
「まあ、驚いたけど。もっと早く言って欲しかった、とも思う……でも、のんが選んだ人なら問題ないかな」
お母さんはクスクスと笑いながらコップに注いだ水を飲んだ。
「それに、ワガママなのんと上手に付き合えるのなんて駆くんくらいじゃない?」
「それ、なんか失礼じゃない?私に」
お母さんを見ると、柔らかい笑みを浮かべていた。
この時のお母さんの表情は、きっとこの先忘れることはないと思う。