義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
駆side
父さんの匂いがする部屋の小さなテーブルに缶ビールが2つ並んでいる。温かい色合いの照明の中に似合わない缶を持ち上げて、プルタブに触れた。
プシュッと良い音が鳴る。
それを皮切りに、父さんは話を切り出す。
「で、何処までヤった?」
「一発目でゲスいこと訊くなよ…」
「いやぁ〜おっさん的には気になるところで1番大事なところなんだけど?」
父さんはこういう人だ。見た目に反して意外と不真面目というか的がズレているというか。
「で、何処までヤったんだ?」
これは答えるまで質問が続くやつだと選別した俺は、小さな声で…。
「キスまで…」
と、羞恥心で一杯になりながら答える。
アルコール度数がさほど強くないビールをグイグイ呑んで、恥ずかしさを逃がそうと試みる。けれど、ニヤついた親父の顔を見て、それは無理だと確信した。
「……まあ、息子の性事情はあんまり知りたくないものだけどね。相手がのんちゃんなら話は別だな。もうのんちゃんは俺の娘だし。」
「真剣に付き合ってるよ。……大事にしたい。」
「うん。それが聞ければ俺は反対はしないつもりだよ。」
嬉しくなって親父の顔を直視すると…。
「俺が再婚しなければ、のんちゃんと駆はただのクラスメイト。自由に人を好きになって良いんだよ。………でも……複雑な立場作り上げて狭い思いをさせてたんじゃないかって不安になってる。」
顔を見ると眉を顰(ひそ)めていた。落ち込んでいるように思える表情が、心を揺さぶる。
「……………」
父さんが家族会議が始まった時にずっと無言だったのは、俺になんて言おうか真剣に考えていたからなのかもしれない。今も言葉を選びながら一つ一つを話しているように思えた。
「俺は、嬉しいよ。ただ確認したいのはひとつだけ。」
「……なに…?」
「………………………責任取れるか?」
俺の返答を待たずに、父さんはたたみかける。
「周りからなんて言われるか分からない。馬鹿にされるかもしれない。引かれるかもしれない。そんな中でも、のんちゃんのことをずっと大切にしていけるか?」
「…その覚悟がなかったら、最初から付き合ってない。」
「………そうか。」
ずっと大切に想ってきたよ。目先の幸せばかりを求めて行動してきたわけじゃないよ。
「安心、してほしい。」
難しい要求かもしれない。でも、気持ちは変わらないし、好きじゃなくなるなんて到底無理だと思うから。
「……………認めてくれると…嬉しい。」
「……わかったよ。」
振り回してごめん。
絶対に父さんも、母さんも、のんちゃんも、全員悲しませたりなんてさせない。
グッと覚悟と決意を胸に刻みつけて、背筋を伸ばした。