義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
「いただきます」
「……案外、すんなり一緒にご飯食べてくれるんだね。……友達とかは大丈夫?」
「…連絡したから。それに、駆くんに言いたいことあるし。」
踊り場に2人で座り込んでご飯を食べる。人が来る気配はなく、あまり気を張らなくて済む場所だった。
「………もしかして…俺、説教される…?」
「………人前で『のんちゃん』って呼ばないで…。恥ずかしかった。………それだけ。」
「それだけ…?」
「うん」
「……ふっ……はは」
「…………なんで笑うのよ…?」
「『のんちゃん』って呼ばれるのは良いんだ?」
「っ……」
あぁ、まただ。この人といると…なんか調子狂う…。
笑った顔がお日様みたいに温かい。眩しくて、築き上げた壁がすぐに崩れそうになる。
「……のんちゃんって一見冷たく見えるけど、優しいよね。」
「っ…なにそれ…」
「俺が遅刻しそうになったら、朝起こしてくれるし。今日だって他人のフリして欲しそうなのに、弁当届けにきてくれるし。気が緩んで教室で『のんちゃん』って呼んだら、怒って口聞いてくれないかと思えば、こうやってご飯食べてくれるし。」
「………家族だから…その…」
「いいね。家族って。ずっと親父と2人だったから…なんか、最近、ものすごく幸せって思う。」
一緒に暮らすようになってから2ヶ月。
お互いのことを少しずつ知り始めて早2ヶ月。
「駆くんは馴れ馴れしくて、距離感がおかしい。あとバカ。……でも、家族思いで優しい。」
「………なんか褒められた気がしないけど?」
クスクスと笑う彼の顔を見て、もう一つ、脳裏に浮かんだ。
「笑顔が温かい」
同級生が兄になった。なかなか受け入れられなくて、モヤモヤしていたけれど。
「……嫌いではない。」
嫌いではない。むしろ、好感が持てる人。
(もう少し真剣に向き合ってみよう)
家族として少しずつ親しくなるのに、このお弁当事件は良い機会だったのかもしれない。