義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
水曜日、最後の授業が大好きな体育。
頭使った後の体育は最高。ストレス発散にめちゃくちゃ良い。
それに…。
「また今日もバスケか〜。指先、紙で切ったから痛みそう〜」
「絆創膏欲しければあるよ?」
隣のクラスと合同。教室から体操着を持って出てきたのんちゃんとすれ違う。
きっと向こうも気づいてるのに、そこで会話をするわけもなく…。
「バスケのレイアップシュートってどうやるんだろうね!バスケ上手な人って尊敬する!」
わざとらしいような顔の逸らし方と声音に少しだけ胸がざわついた。
「よーし、じゃあここからはゲームな〜。」
待ってました。試合の時間。
ドリブル練習とかよりもやっぱり盛り上がる。
ホイッスルの音が鳴り響くと、タイマーが動き始める。
運動は得意な方で…。
《ダンッ》
特に球技は好きだ。
「っ…駆!」
名前を呼ばれて、仲の良い龍司(りゅうじ)にパスをして縦に抜ける。ディフェンスを交わして切り込んできた龍司からもう一度ボールを貰い、シュートモーションに入った。
ボールが綺麗な放物線を描いて、ゴールリングへと吸い込まれていく。
我ながら上手いと思った。
「っしゃ!」
「ナイス!駆!」
部活でも何でもない体育の時間なのに、熱くなってしまうのは負けず嫌いが働いているからだと思う。
「龍司もドリブルめちゃくちゃ凄かった!」
バスケの詳しいことはよくわからないけど、誰からどう見ても龍司の動きは凄いって惚れ惚れするだろうな。
楽しい時間はあっという間で、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「ふぅー。1試合休憩〜。」
大きく伸びをして龍司とステージに寄りかかりながらフィールドの方を眺める。
「……あ、女子の方、水樹さん出てる。」
「………え?」
「ちょっと気になってるんだろ?」
「っ……別に好きとかではないよ?」
龍司は鋭い。特に幼い頃からの仲だからか俺に対しては研いだナイフみたいに鋭い。
「ほぉ〜自覚してねぇんだ?」
「いや、その……言っただろ…? 家族になったって」
「あぁ。極秘事項な。俺以外にはまだ黙ってるんだ。」
「なんかバレるの気にしてるらしい。気まずいからって。………でもさ、よくわからないんだけど必要以上に避けられてる気がするんだよな。学校だけじゃなくて家でもさ。」
その根拠が見つからないから、いつもふとした時にモヤモヤする。
「大変だな。」
「うん」
軽いため息をついて、タイマーを見つめた。残り時間2分。憂さ晴らしに体動かして目一杯楽しもうと心に決める。
その瞬間だった。
《ドンっ》
肉打つような派手な音がして、反射的に音が聞こえた方向に目をやる。
「ごめん!!前見てなかった…!!」
謝る声は床に座り込んでいる、のんちゃんのもの。
「のの、大丈夫…?立てる?」
「あ〜…ちょっと挫いたかも。」
先生が駆け寄って、話しているのを遠目で見つめた後、無意識に俺の足は動いた。
「保健室行くか?歩けるか?」
「はい…!大丈夫です! ……っ…いたた…」
しっかりしてるのに、妹よりかは姉みたいで。
「力入る?本当に大丈夫?」
ほんの少ししか一緒に生活してないし、あまり話さないけど。
「大丈夫!」
無理して笑ってるように見えるから…
「俺が運びます。」
「っ!駆くん…!?」
放っておけなくて、頼って欲しくて、有無を言わさずに俺はのんちゃんを抱きかかえて保健室へと歩き始めた。
「俺、保健委員なんで!お任せあれー!」
きっとのんちゃんに怒られる。だけど、他の人に運ばれる姿も無理して立ち上がる姿も見たくないから。
「のんちゃん、ごめん。今だけ許して。」
初めて触れたのんちゃんの体は、軽くて、細くて、柔らかくて。
真っ赤になって恥ずかしがっている顔が可愛かった。