義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
「バカなの!?」
「保健室着いて第一声が罵倒って……俺頑張って運んだのに〜」
「っ…恥ずかしかったから…」
涙目になりながら、眉尻を下げる。そんな彼女の腫れている右足首に触れると、痛そうに顔を顰(しか)めていた。
「保健室の先生いないけど、勝手に湿布とか使って良いのかな?」
「後で会った時に『もらいましたー』って言えば問題ないと思う。基本、優しいし何も言われなそう」
靴と靴下を脱がすと、真っ白な小さい足が見えた。くるぶし付近が特に赤く膨れ上がっていて、重度な捻挫であることは見てわかる。
「ねぇ、駆くん」
「ん?」
「駆くんは私とのこと、冷やかされるのとか…嫌じゃないの…? さっきのこと、絶対にみんな訊いてくるよ…?」
「別に気にしないよ。無理して笑ってるのんちゃん見る方が嫌だし。」
「………っ…」
「……あと…少しは仲良くなれるかもって…少しだけ下心ある。」
洗濯後の清潔なタオルを手に取って、保冷剤を包む。それから患部(かんぶ)に当てると、ピクリとのんちゃんの足が跳ねた。
「……あのさ、俺が避けられてるのって何か理由あるの?」
単刀直入に質問することで距離が縮まるんじゃないかと思った。ずっとモヤモヤしてるのも嫌だし、今くらいしかこんな風にゆっくり話すことができないだろうから。
「避けて…ないよ…」
「嘘だ。家でも会わないだろ?」
「それはたまたまタイミングが悪いだけで…!」
「……学校ですれ違っても無視だし、なんか寂しいじゃん。」
「っ………」
女々しいって思われてそう。事実、ちょっと俺は女々しいかもしれない。
「………」
急に恥ずかしくなってきて背を向けた。何かして気を紛らわせたくて、先程湿布を取り出した棚の方へともう一度踏み出す。
するとその時……。
クイッと体操着の裾を後ろに引っ張られた。
「っ……なに…?」
驚いて振り返ると…。
「………ごめん…なさい…。なんか、恥ずかしくて…その距離感もわからなくて…」
顔を真っ赤にして伏し目がちにのんちゃんは言う。
「……気づいたら、なんか…どんな顔して話したらいいかもわからないし…」
「………そんな顔でいいじゃん。今みたいに素直な顔。」
「っ……変じゃない…?」
「……可愛いと思う。」
「お世辞とかいらない」
「別に本気で言ってるんだけど」
白い肌に火照った頬の赤色が映える。
可愛いと密かに人気になる理由もわかる気がした。
普段、可愛げなくてツンツンしてるのに、ごくまれに緩んだ態度は純粋に可愛くて…。
「………あの…さ…駆くん…」
せっかく兄妹になったから仲良くなりたいと思った。
せっかくだから。
そう思っていた。
「……………運んでくれて…ありがとう…」
恥ずかしそうに言う彼女を見て、純粋に心が惹かれて。
「………うん」
もっと仲良くなりたい。
甘く高鳴った胸の鼓動を、確かに感じながら自分は……。
「のんちゃんだから、もっと仲良くなりたい」
模索しよう。
関わり方。距離感。
間違えたとしても修正して一歩ずつ。
(……俺、のんちゃんのこと好きかも。)
芽生えた感情に確信を持つのは、まだまだ先の話。