風雅堂異談
店の名前は風雅堂と言う。名前の優雅さとは裏腹に、立ち寄る客は殆どいない。流行りの書籍は無く、大半が一世紀前の書物と見まがうばかりの本である。
どうにか商いが成り立っているのは、一部の書籍マニアのお陰である。


その日は朝から雨模様。曇天の空から落ちて来た雨がアーケードに当たり鈍い雨音を響かせていた。店では、優が難しい顔をして、古書を読んでいる。特に難しい顔をする必要はないのだが、何となくである。ゆきはレジ横指定席で居眠り中である。


「こんにちわ。」


珍しく客である。
しかも、場違いな若い女性。白いワンピースに身を包み、つばの広い帽子を目深に被っている。


「あの~?この近くに、ランって喫茶店ありますか?」


どうやら、客では無いようである。


「ランは斜め道向かいだけど、今日は定休日だよ。」


「今日は、水曜日ですよね?」


「いゃ、火曜日ですよ。」


「嫌だ、1日間違えてるわ。失礼しました。私、ランで今度アルバイトする。水上麗子って言います。御近所さん宜しく御願いします。」


そう言うと、ぺこりと御辞儀する麗子。

「あら、可愛い猫。」


ゆきの頭を撫でようとするとその時…
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