風雅堂異談
中川に送られ店に帰った優。店の奥の住居部分の更に奥の一室に入って行く。
ここは、本来祖母の居住スペースであった部屋である。
祖母により、強力な結界が張られており、妖しの類いは入れないのだが、本来祖母の使い魔であるゆきは入れる。


「おっ~と!本が暴れてるな。忘れてた。」
本に対し、何事か呟くと部屋に入る中身はゆきの優。


神棚の一角に本を置くと、部屋の襖を閉め蝋燭に火を灯す。ぼっーっと、淡い光に包まれた部屋の中、優が言う。


「出ておいでよ。」

さて、優以外無人の部屋で、出ておいでよとは?
誰に呼びかけてるのか?


やがて、淡い光の中に浮かび上がって来るシルエット。
それは徐々に人影の形になる。


影が口を開く。


「けっ、抜かったわ。ただの本屋と思ったに。主は…この男ではないか?妖狐?か…ははっ、何とも不思議な店だな。」

どうやらこの妖、ゆきの正体を喝破しているらしい。


優が問う。ゆきの声で。


「お前、いにしえの彼方に封印されたはずでは無かったかな?何故蘇った?」


「ぬかせ!儂を閉じ込めたくそ坊主はどこじゃ?積年の怨み今こそ晴らす。」
みるみるうちに、影は悪鬼の形相に変わる。
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