風雅堂異談
大きなあくびをしながら、店のシャッターを開ける優。


「おはようございます。」


声のする方を見ると、道路を挟んだ斜向かいの喫茶店の前で、麗子が看板を出している所だった。看板を出す手を止め、此方に手を振りながら御辞儀をしている。慌てて優も、


「お、おはようございます。」と返す。

彼女は看板を出すと喫茶店の中に入って行った。
店のシャッターを開け、おざなりの掃除を済ませ、熱いお茶を入れると、何時ものレジ前の指定席に座る。そう、彼は若いのに、珈琲より日本茶派なのである。ゆきは…彼女?は朝から店の周りの点検に余念がない。人から見れば縄張りの確認に見えるだろうが、実は昨夜彼女が張った結界に綻びが無いか確認中である。

『あった。やはり昨夜忍び込む気であったか?使い魔か?』

見れば、一匹の蜘蛛が中空に見えない糸で絡め取られているように浮かんでいる。ゆきが触れると、たちまち蜘蛛は、紙屑となり、天空に舞い上がって行った。

『災いを起こさねばよいが…』


呟くと、朝御飯をねだる為に優の元へ行くゆき。
彼女の好物は、鰹節をかけた猫まんまだが、若い主人はすぐ猫缶を開けたがる。困ったもんだ。と呟きながら店に入る。
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