四日間の恋人契約

ちょうど一台だけいた黄色いタクシーに手を挙げて、二人で後ろに乗り込む。

「Resorts world sentosa, Please」

真田がそれだけ言うと、タクシーは静かに動き出した。

「い、いいの?あんなこと言っちゃって」

ようやく肩から手を離して、真田は楽しげに笑う。

「だって、夜デートしようって、お前が言った」

「そ、そうだけど」

「まあ、浮かれた男の戯れだと思って付き合えよ。お前だって観光したかっただろ」

「そりゃ観光は、したい。何にも気を遣わない真田と二人ならなお良いとも思う」

あえて、浮かれた男、の部分には触れない。
だってどう考えても真田が私とのデートに浮かれる理由なんてない。

14年間を、今この瞬間高速で振り返ったってそんな気配感じたことは一度だってない。

だから、この台詞すら、シンガポール限定の戯れなのだと結論付ける。

「でも一つ言うならチャイナタウンのチキンライスも気になる」

ぷく、と頬を膨らませてぶー垂れると、隣で真田が指折り数え始める。

「セントーサ島には、カジノもどデカいショッピングモールも、ユニバーサルスタジオ・シンガポールもある」

悪くない。が、まだ軍配が上がるほどではない。

「うーん、もう一声欲しい」

「えー、あとは、そうだな。あっ……俺がいる、とか?」

……。
この男は、一体どんな顔してそんなことを言ってるんだ。

ちら、と横目で真田を見る。私の方には目を向けず、真っ直ぐ前を向く横顔は、夕日に照らされて赤く染まる。眼鏡も照らされてるせいで、瞳の色までわからない。
顔に差す朱色が、夕日のせいだけなのか、それとも。

「……顔、赤いよ」

「それは気付いても黙っときなさい」

こちらをわずかに振り向いて、真田の眼鏡の照り返しが無くなる。

瞳は不機嫌そうに細められて、それが彼の照れだと分かる。

「ふふ」

「……なんだよ」

「真田がいるならこっちに軍配が上がったわ」

「さようですか」

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