四日間の恋人契約
セントーサ島には、長い橋を渡って行くようだ。
タクシーの車窓から、夕日に染まる海と、高層ビルの影が、ロマンチックに目を楽しませる。
僅かに空いた窓からは、風の音に紛れてカモメか何かの鳥の鳴き声がした。
こんなふうに二人でタクシーに乗ってどこかに行くなんて、滅多に無いな、と思う。
非日常がここにある。
窓から見える景色も、隣に撫然として座る同期も、さっきまで抱かれていた肩に残る温度も。
全部が日常とはかけ離れていて、私の心を騒つかせる。
「吉野ってさ、しばらく彼氏いないんだっけ」
だから、こんな他愛もないはずの会話も、何か意味のあることのように思えてしまう。
「……とりあえず、研修医のときに遠距離だった先輩と別れたきりかな」
「ああ、なんだっけ。バド部の、だよな。結構長かったよな」
「そうだね。大学3年の時に付き合い始めたから、5年近く付き合ってたかなぁ」
同級生なので、そこら辺はみんな筒抜けだ。
医学部はどの大学もそうだが、一学年100人ちょっとくらいしかいなくて、そのまま6年間同じ教室で学ぶことになる。自然、誰が誰とどのくらいの期間付き合ってるか、なんていうのも基本情報として頭に入っている。
もちろん、誰と誰が浮気した、なんて言う話もそこかしこから聞こえて来る、狭い世界。
「真田は奈津子と付き合ってたよね、確か」
「うわ、それ掘り返すか?そうそう、4年のときに一年だけな。ほんと国試前で良かったよ。あの一件で、いまだに俺はトラウマだわ」