四日間の恋人契約
ホテルは、あのマリーナベイサンズを予約した、と聞いたのは学会参加が決まってすぐのことだったと思う。
またまた、医局員同士でプールにだってきっと入らないのにどうしてそんなところを予約したのかと聞けば「一回くらい泊まってみたいだろ!?教授命令!」と有無を言わさず決定が下されていた。横暴である。
しかしこうして目の前にキラキラしく聳え立つ三つの塔と、そのはるか上に船をモチーフにした巨大な建造物が乗っている建物を見ると、いかにもな場所に泊まるのも悪くないなと思える。
すでに荷物はホテルに置いて、私たち5人はマリーナベイサンズが放つ光のショーを横目に、目的の場所を目指して歩く。
「シンガポールといえばカニですもんね!楽しみです!なんだっけ、あの、ほら」
明里ちゃんの雑なフリに、旅行前に予習してきた知識で「チリクラブね」と返すと、そうそうそれそれ、と入局して間もない割に中々偉そうな返事が返ってくる。
「チリクラブな〜、写真で見たけど、あれたぶん値段の割にそんな量多くないよな。腹満たされるかな」
「食べ物のことしか考えてないの相変わらずさすがですよね志摩先生…」
「え、もしかして恭太、喧嘩売ってる?」
「いえ、思ったままを言葉にしてただけで」
「ちょっとちょっと、仲良くしてよ男子〜!ここから四日間一緒なんだから、僕たち」
そう言って、前の大学にいた頃の学会旅行で医局員同士で喧嘩になった長い話を始めた教授を適当に流しつつ、私はスマホのマップでチリクラブ発祥の地と言われるパームビーチシーフードを探す。
「あ、ここですよ」
テラス席もあるその店からは、マリーナベイサンズもよく見えた。
華やかなネオンと賑やかな雰囲気に自然テンションが上がっていく。
このままテラス席で食べることにして、私たち5人は飛行機の疲れを癒すためにお酒を頼む。