四日間の恋人契約

「……嫌じゃない。ただ、心臓に悪いよ」

だってこれまで私達は、用事があるときに背中を叩いたり、ふざけて肘を小突いたり、湿疹が出た時に診あったりとか、その程度の触れ合いしかして来なかったわけで。

いきなり手を繋ぐだなんて、想像もして無かった。思ったよりも大きくて私の手をすっぽり包んでしまう、熱いくらいのあの手が、真田と上手く結びつかない。

「心臓に悪いってどういうこと」

「頻脈になる」

「Heart rate100超える?」

「超えるわ!あと脈飛んでる気がする、期外収縮絶対ある。どうしようそれかAfかも」

「それは不整脈。俺が聞いてんのはそういう冗談じゃなくて」

一度ジッと目を見つめられて、その眼鏡の奥の瞳が楽しげに揺れたのが分かった。

「ドキドキした?」

「……その表現はずるい。同期と言えど同年代の男子と手を繋ぐのなんて6年振りだよ!?これは仕方ない、ただの不可抗力」

落ち着け私、と背筋を伸ばして胸に手を当てて深呼吸。そう言い聞かせてる私を興味深げに見つめて、ボソリと真田がとんでもないことを言う。

「……恋人ごっこしてたら、お前、俺のこと好きになんのかな」

「はっ!?ちょっと、冗談でも恐ろしいこと言わないでよ」

入局して間もない時期ならまだしも、この歳で医局内恋愛だなんて裏で一体どれだけ面白おかしく語られるか。

目の前で二人分チキンライスを頼む真田を恨めしげに見つめる。

もし真田と付き合ったら……。

そう想像しようとした瞬間、明里のニンマリ顔が浮かんできて顔が青褪める。というか、そもそもこの恋人契約だって明里の提案だったじゃないか。私が恋のキューピッドだ、などと言い兼ねない。それどころかこれをネタに今後揺すられる可能性もあるのでは……。



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