四日間の恋人契約

遅い夕飯を食べ終えて、私たちは夜のシンガポールを歩く。
日付けはまだ変わっていないが、こんな遅くまで賑わっているというのも異国らしい。

「あっちにマーライオンがあるんですって!せっかくだし写真も撮りたいですっ」

キャピキャピとはしゃぎながら明里が志摩先生の背中を押す。

「えー俺帰ってもう寝たいんだけど、明日発表だし…」

「発表?あ、そっかこの旅って学会とかあったんだっけ……」

「おいおい、メインは国際皮膚科学会!篠塚、分かってんのか!?」

教授もさすがにこれには呆れたようで、ガシガシと後ろ首を掻く。

「まあ、篠塚は皮膚科一年目で発表とか無いからな…。なんだっけ、籤引でアタリ引いたんだよな?」

真田がコソッと私に尋ねてくるので、頷いてみせる。

「そうそう、私と志摩先生と真田は学会発表があるから行くの決まってたけど、医局費出せる枠一人余ってたから籤引してもらって、そしてなんと一年目が引いちゃったっていう」

「運強いな…」

「神崎とかめっちゃ悔しがってたよ。来年発表だから見に行きたかったって」

「まあ、それを言ったら藤野とかも来年発表だからな。公平のためのくじ引きなんだろうけど…」

ここにはいない医局員の話を含め、他愛も無い事を話しながら、前を歩く三人について行く。
少し先に人だかりがあって、よく見ると口から水を吐き出すかの有名なライオン像が遠目に見えた。

「あ!見ろ吉野、マーライオン」

「お、ほんとだ。水吐いてる」

「めっちゃ噴水様嘔吐」

「うわ、噴水様嘔吐、国試でやったよね。何だっけ…小児の疾患」

「幽門狭窄症」

「あー、そうそう。って、くだらな」

ふは、と噴き出すと、真田が隣で柔く笑ったのが分かった。優しくこちらを見る視線に、ソワソワして落ち着かない。
なんだかんださっきの会話を引き摺っているからだ。

「……ねぇ真田。この四日間、ほんとに恋人ごっこするの?」
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