四日間の恋人契約
何も無理してそんな事する必要はない。
私たちの旅の目的は学会発表だし、何も今ノリでそんな事をしなきゃいけないほど私だって切羽詰まって彼氏が欲しいわけじゃない。

こて、と首を傾げて真田を見上げる。

冷静沈着、という四文字が似合いそうな端正な顔立ち。すっきりとした薄いフレームのメガネが彼にはよく似合っている。

ふと思い出したように整った顔立ちだな、と思うこともあるけれど、日常の雑務に紛れて彼に対するそんな感性は失われて久しい。

入局して6年、その前の研修医2年間は別病院だったから彼の動向は知らないが、その前の学生時代の6年間から私は彼を知っている。

知り合って14年だなんて、なんて長いことか。生まれてきて32年の私には生の半分くらいを彼を知って生きていることになる。なんて、大袈裟だけど。
もちろん、お互い学生時代に別に恋人がいたことだって知識として知っているし、そんな私たちがいまさら四日間とは言え付き合うだなんて想像も出来ない。

「……まあ、四日間くらいなら、旅の思い出に俺は別に構わないけど。あの手のかかる三人から離れて純粋にシンガポールを楽しみたいという下心ありきだけど」

「なるほど察した」

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