愛と呪いは紙一重
恵は幽霊を見かけた時、見えないようにしていた。そのため、幽霊が何かを言っていても、聞こえないようにしていた。霊の声を聞かないこと、それを他の見える人もそうしていると思っていたからだ。

「知りたいなら、この人の声を自分で聞きな」

硝子はそう言って立ち上がり、恵の方に歩いてくる。そして恵の手を両手で優しく包み込んだ。

「えっ、あっ……」

突然距離が近くなり、恵の体が何故か熱を感じてしまう。だが、硝子に触れた数秒後、まるで冷水を打たれたかのように体が冷え、脳内に苦しげな声が響く。

『許さない……。あいつ、許さない!』

その声は激しい怒りも含んでいる。恵は恐怖を感じながら、恐る恐る口を開いた。

「あの、あなたは誰かに背中を押されたんですか?」

その瞬間、猛獣の咆哮のような声を愛は上げる。そして恵の脳内に、今度は愛の声ではなく映像が流れ込んできた。

病院の敷地内にある中庭のような場所を、看護師の白い制服を着た愛が車椅子を押して歩いている。その車椅子には、痩せ型の体をした優しそうな男性が座り、二人は楽しそうに話しながら歩いている。
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