愛と呪いは紙一重
「あんた、厄介なのに憑かれたね」

「えっ、もしかして見えて……?」

恵が背後を指差しながら訊ねると、女性は首を縦に振る。彼女も霊感がある人間だったのだ。



女性の名前は黒鳥硝子(くろとりしょうこ)と言う。部屋に入るために続く廊下を歩いている時、お互いに自己紹介をした。

「黒鳥先生も幼い頃から見えてたんですね」

「ああ。まあ、うちは除霊専門の神社をやってるから家族全員が霊感持ちさ」

そういう家庭で生まれれば、霊が見えた時の恐怖なども理解してもらえただろう。恵は自分の幼少期を思い出し、硝子が羨ましくなる。

「んで、あんたの後ろに憑いてるのは私が解剖する遺体の人物?」

「はい!田中愛(たなかあい)さん。都内の病院で看護師として働いていました。歳は二十四歳です」

恵が硝子に話している間も、背後で愛が何かをブツブツと呟いている。その様子を硝子がダークブラウンの瞳でジッと見つめ、何かを考え込む仕草に恵の心がトクンと優しく跳ねた。
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