【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 仕事できているアブダビに押しかけて、その上、誠さんの都合のいいときに迎えに来てくれるという提案さえ拒否。大きな溜息を覚悟していた私に返されたのは「わかった」という優しい声だった。心なしか、ふっと笑っているようにも感じる。

「ただ、俺の泊まっている棟は専用のキーがないとはいれないんだ。だから下のカフェで待ち合わせよう」

 いい? と問われて、私は電話越しに何度も首を縦に振って「はいっ!」と返事した。
 私の反応に誠さんがまたくすっと笑う。電話越しだからか、想像のなかの誠さんは優しく目を細めている。

「今すぐに――と、言いたいところなんだけど、少し片付けたいことがあるんだ。そうだな……40分後に待ち合わせでどう?」

 誠さんの提案に、私はちょっと食い気味で承諾した。じゃあまた、と電話を切るまで、誠さんの声は微笑んでいた。
 声を聞けただけで、胸いっぱいに詰まっていた不安が温かい気持ちになる。

 ふと、部屋の奥に設置されたパネルミラーに映る自分と目が合った。
 着の身着のまま出てきてしまったせいで、部屋着ではないものの、オフホワイトの薄手のトップスにネイビーのロングスカート。煌びやかな部屋では逆に浮いてしまっている。お気に入りではあるけれど、ちょっと地味な気がする。

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