【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 こんなところで自覚してしまった。私はこの人のことを知りたい。父の遺言だからじゃない。きららや健二くんのためじゃない。他の人が知っていることさえ知らずにかたちだけの妻になってしまったのが悔しかった。私はこの人に、愛されたい。

 自分の浅はかさに涙が止まらなくなる。誰かと重ねられているくらいなら、甘い言葉も、熱っぽい視線も痛いだけだ。

「なにも知らないって……ゆきのの父上に渡した書類に結婚の申し込みをしにいったときのことは全て記載したはず……」

「いいえ、書類に書いてあったのは誠さんのご家族のこと……それから誠さんと結婚するよう、ただそれだけです……あとはふたりで話すように、と」

 誠さんの言い分だと、もしかして書類はあれだけではなかったのかもしれない。
 他にあった詳細な書類を捨てて、私たち2人が話し合うよう仕組んだ……ロマンチストだった父ならやりそうなことだ。もしそうだとしたら私と彼の認識に齟齬があるのは当然だ。

「ッ、――すまない」

 切なげな声と同時に、二本の腕に引き寄せられて、きつく抱きしめられる。

「これほどまでゆきのを追い詰めていたんだな。……本当にすまない」

 縋るようにも聞こえる声が肩口で響く。ぎゅうっとしがみつくような腕に、私も誠さんの背中にそっと手を回した。

「……こうなる前に話すべきだった……ひとつずつ話すから聞いて欲しい」
< 107 / 145 >

この作品をシェア

pagetop