【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 確かに私は結婚前、ゼリー会社で事務をしていた。その話を誠さんに直接話した記憶はないけれど、もしかしたら父が事前に話していたのかもしれない。そう自分を納得させようとした私に誠さんはくすりと微笑み、自分の前髪を掻き上げる。
 前髪をあげた誠さんの顔に、妙に懐かしさを感じる。

「ゆきのがまだ入社したばかりの頃、工場で火事があったのを覚えてる?」

「はい、覚えています」

 私がゼリー製造会社に入社したばかりの頃、工場で家事があった。
 幸い大きなケガをした人はいなかったものの、目と鼻の先で起こったことだ。忘れられるはずがない。

「あの日、うちのホテルは取引先検討の材料として工場見学を予定していたんだよ。予定より早く着いてしまってどうしようかと思っているときの火事だった……そのとき誰よりも早く駆けつけてきた女性がいたんだ」

「……えっ、あ、もしかしてあの時の男性って……」

 慌てふためく周りを置いて、火事現場に誰よりも早く駆けつけてしまったあの日。頭より体が先に動いてしまって混乱する作業員の方達を支え、屋外へ連れ出しているとき、見たことがない男性がそれを手伝ってくれていた。前髪を後ろに流した髪型で、冷たい目をしていたけれど不思議と怖くなくて印象的だった。一瞬だけ、目が合った気がしたけれど言葉を交わすことはなかった。
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