【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 近所の会社の方なのだろうかと思いつつ、落ち着いてお礼を言おうとした頃、もう男性の姿はなかった。

「ああ。あの対応の早さ……あのときこの会社と契約しよう、と決めたんだよ」

 誠さんが安心したような、心底嬉しそうな顔をする。
 誠さんと私は初対面じゃなかった。髪型が違うだけで分からなかったなんて……!

「ご、ごめんなさい、私、誠さんと初対面だなんて……」

 いや、と私の頬に誠さんの大きな手が添えられる。重なった視線は、あの時のように背筋が凍るようなものではなく、優しくて、熱っぽい。

「一瞬だったし、話してもいなかったからね。……あれから視察がてら何度か伺っててね、ゆきのが山積みの書類の中で仕事をしているのも見かけたよ」

 私の髪を長い指で梳きながら彼は目を細める。誠さんの言うとおり、入社したばかりの頃は先輩達が勉強のためにと色々な仕事を経験させてくれた。そのため夜遅く一人で残業することも珍しくなかったのだけれど、いつの日かを境にぱったりなくなって、業務分担が明確化された。そのときに先輩達になぜか謝罪されたのを覚えている。
 そんな要領の悪い姿を見られていたなんて。

「情けない姿ばかり見られていたなんて……恥ずかしいです」

「情けない? 頑張り屋で、可愛い姿を見られて嬉しかったけどな」

 顔を背けた私の顎を、頬から滑らせた指が掴んでそのまま形のいい唇が降ってきた。

「……んっ」
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