【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 誠さんがポケットから取り出したのはシルバーのネックレス。

筒型の万華鏡がついていて、雪の結晶が施されている。私はこのネックレスに見覚えがあった。母がいつも大切そうにもっていて、5歳の誕生日に強請って譲って貰ったのだ。
 どんなに寂しい夜も、それを覗けばキラキラとした世界が広がっていた。布団は魔法の絨毯に変わったし、少し揺らせばいくらでも景色が変わることが楽しかった。それは幼い私の魔法のランプだった。

 記憶のピースがカチッとはまる音が響く。

 ――思い出した。熱にうなされて忘れてしまっていた記憶。
 夢の中、何度も一緒に魔法の絨毯にのった少年の顔がはっきりと浮かび上がる。


 行きかう大人たちの中、迷子になった私ははぐれた母を探してあたりをきょろきょろと見渡していた。
 言葉の通じない異国で不安に押しつぶされそうになりなっていると、すぐそばで怒鳴り声が聞こえて思わず振り返る。
 そこには私よりいくつか年上にみえる少年が地べたに座り込んでいて、周りを鋭くにらんでいる。
 かすかに聞こえた日本語に引き寄せられたのかもしれない。

「大丈夫ですか?」

 私は気づけば彼のもとへ駆け寄って、手を差し伸べていた。

「別に大丈夫。いいから向こうに行けよ」
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